2020年10月16日金曜日

パトリシア・ハイスミス「水の墓碑銘」(1957)

パトリシア・ハイスミス「水の墓碑銘」(1957)の柿沼瑛子訳1991年河出文庫版がそこに100円で売られていたので連れ帰った。一昨年11月の事だ。
DEEP WATER by Patricia Highsmith 1957
映画にもなった「見知らぬ乗客」「太陽がいっぱい」で知られるパトリシア・ハイスミス(1921-1995)の本はまだ1冊も読んだことがなかった。この作品もたぶんサスペンス小説だと推測して読み始めた。
ハイスミスは欧米では有名なサスペンス小説作家なのだが邦訳が出ているものは多くない。

冒頭のダンスパーティーの場面からもうぜんぜん頭に入りづらい文体だが、状況設定がわかっていくにつれ読みやすくなる。

36歳のもっさい風貌のヴィク(印刷業で資産家、知的で教養もある)は、美しい妻メリンダ(なぜこのふたりは結婚したんだ?という不釣り合い)が若いハンサム男ジョエルとダンスしているのを長椅子に座って眺めている。この小説はずっとヴィク目線で語られる。

パーティー客やホスト(主人)が次々と話しかけてくる。妻と以前関係のあったマルコム・マクレー殺害事件の話題などしてる。状況をなんとなく推測するしかない。

幼い娘がいるのに妻メリンダとの関係が冷え切ってる。夫は家庭内別居。自由奔放な妻は若い恋人といちゃいちゃ街を歩いて住民たちの噂話。ヴィクは気にしない。妻の浮気を放任する。街ではヴィクの温厚紳士ぶりが評判。

一人目の男ジョエル(巡回セールスマン)はそのうちいなくなった。妻は何か酷いことを言って嫌がらせした?と夫を疑ってる。
二人目の男ラルフ(画家)はヴィクから「マクレーを殺したのは俺だ」「妻に近づく奴は殺す」と脅される。追い払われる。(この件も街で噂になるのだが、マクレー事件の真犯人は別に捕まる。)

三人目の男デライル(バーのピアニスト)を妻が連れてくる。住む家の保証人にもなる。
あるパーティーの夜、ヴィクはデライルをプールで溺死させる。いきなりでびっくりする。何も計画性がないし直前の心理描写もない。この夫はサイコパス?

ヴィクの人柄を知ってる周辺の人々はほぼ全員がデライルの死を不慮の事故と考える。目撃者も証拠もない。だが、妻メリンダはヒステリックに「ヴィクが殺した!」と方々へ行ってわめく。

それに、もう一人ヴィクが犯人だと断定する男も現れる。何か目撃した?
そしてメリンダはコロンビア大学の心理学の専門家だという男を連れてきてヴィクを観察させる。ヴィクは「こいつは妻の雇った私立探偵かなにかだろう」と考える。このへんから心理的かけひきが始まる。

だが、読んでも読んでも面白くもなってくれないしハラハラする展開にもならない。妻の愛人を殺しておいて、町の名士としてしれっと暮らしてる男。

だが裏では不動産関連の仕事をしてるキャメロン(4人目の男、ヴィクはこいつも嫌い)を街で車に乗せ採石場の崖から突き落とし、湖に沈める。(だからタイトルがディープ・ウォーターなのか)
殺人の場面が突然出てくるところは怖いかもしれない。この事件が後に妻の疑惑をさらに深め、ほころびとなっていく…。

最後の最後でやっとストーリーが進展。2人を殺したと強く疑う妻とウィルソンの罠に落ちる。あの場面でウィルソンが現れる場面は「こいつ、嫌だな~」って思ったw
プロット的に松本清張でよく見るような墓穴を掘るイヤミス。急な終わり方がおしゃれ。

自分はハイスミスを初めて読んだのだが、展開がスローで退屈もした。だが、ひたひたとストレスを感じさせる心理的な描写と物語の構成設計が深いなと感じた。
主人公が誤植が極めて少ないことを誇る印刷業者であることや、カタツムリのつがいを飼っていることなども何か意味がありそうだ。
できればハヤカワみたいに登場人物一覧表が欲しかった。

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