永井路子「美貌の女帝」という本を見つけた。表紙裏のあらすじ書きを読むと元正天皇(680-748)を主人公にした歴史小説らしい。
天武持統朝に元明天皇ー元正天皇という女帝が2代続いたことは知っているのだが、個性と言うものを何も知らない。永井路子は尊敬する作家でもあるので連れ帰った。
「婦人画報」連載23回を経て昭和60年に毎日新聞社から初単行本化されたもの。1988年文春文庫版の1998年第10刷を100円で購入。ほぼ新品のような一冊。
14歳になる氷高皇女は誰もが振り返る美少女だが、美貌を褒めると母阿閉皇女(天武持統を両親に生れた草壁皇子の妻だがすでに未亡人)の顔が曇る。
母は娘に言い聞かせる。「蘇我の娘たちには平坦な生涯は許されない」
氷高はかつて「今まで誰も見に受けたことのない栄光に恵まれる。しかし、世の常の女のように恋をし子をもうけるなら栄光は失われ、恐るべき運命が待ち構えている…」という予言を受けた。
無口な持統女帝は政務に勤しむ。甘えることは許されない。新都藤原京から氷高は山田寺を参詣する。祖父の蘇我倉山田石川麻呂は讒言によって中大兄によって討たれ無念の死を遂げた。蘇我の一族と天智天武の愛憎を想う。従兄の高市皇子の病が平癒することを願う。11歳の弟軽皇子(後の文武天皇)もひ弱で心配。
高市皇子の死、長屋王との秘めた恋、弟軽の文武即位、宮子の出現、県犬養三千代が不比等といつのまにかできてる?蘇我の敵藤原鎌足の子藤原不比等がじわじわのし上がる。
文武天皇が25歳で急死。すると母阿閉が元明天皇として即位。だが、不比等の政治力にずるずると敗北。藤原京を棄て平城京へ。天武の偉業は薄められる。
だが不比等も孫を天皇にする野望を見る前に死去。
元明女帝は長屋王と、不比等の次男で政界の実力者藤原房前を呼びつけ、文武が藤原宮子に産ませた首皇子(おびとのみこ)を皇太子に指名。元正天皇の即位。
だが今度は房前が増長。そして聖武天皇の即位。元明VS不比等が、今度は元正VS房前の時代へ。
聖武は幼い息子の死をきっかけに呪詛の容疑で邪魔な長屋王とその一族を抹殺。元正の妹吉備も殺され絶望。病床で老け込む。
しかし、藤原武智麻呂、房前、宇合、麻呂の4兄弟全員が疫病で相次ぎ死ぬ。長屋王を讒言し出世した男も死亡。長屋王の呪い?藤原の血を引く光明皇后も落ち込む。
聖武天皇は歴史上の偉人だと思っていたのだが、元正目線のこの小説を読むと心を病んだ哀れな人。光明皇后も可哀そうな人。このころには橘諸兄が朝廷を支える。
聖武は各地を転々と移動。17歳の息子・安積(あさか)親王の急死でますますおかしくなり始める。元正もドン引き。
この時代は平城京だけでなく難波京、恭仁京、紫香楽など、あちこちに都があったって知らなかった。
もうどうにもしようがない。元正は聖武の皇女である阿倍内親王を後継に指名して世を去る。最後のほうはゆっくりしみじみ終わる。
この歴史小説は元正天皇というよく知られていない女性天皇の心と、政敵藤原との確執とをわかりやすく描いていて面白かった。調べてみたら人気の一冊っぽい。持統から聖武までの歴史の学習にも最適。オススメする。大河ドラマ化希望。
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