2020年8月27日木曜日

横溝正史「仮面舞踏会」(昭和49年)

横溝正史「仮面舞踏会」を読む。平成14年の角川文庫「金田一耕助ファイル」版で初めて読む。昨年秋ごろに100円で見つけて確保しておいたもの。

このシリーズは巻末解説のようなものが一切ない。初出を調べてみたら1962年に宝石で連載スタート。途中で中断したりして1974年にようやく完成。最初のページに「江戸川乱歩に捧ぐ」とある。
ひたすら長かったのだが2日で読んだ。こいつが597ページの大長編。

人々はみんな正体を隠して生きている。仮面舞踏会のようなもの。ということでタイトルは「仮面舞踏会」。
神戸出身のシティボーイ横溝先生はクラシック音楽に素養が深かったらしくヴェルディの同名歌劇から名前をとったらしい。
正直、このタイトルは合ってなかった。かといって「軽井沢殺人事件」では内田康夫みたいだ。

舞台は昭和35年8月の軽井沢。不動産業で成功した元公爵飛鳥忠熈氏の別荘に集った男女たち。女優鳳千代子は過去に4度結婚し忠熈氏と5度目の結婚も近いとのうわさ。

その前にプロローグで金田一さんは山で男女の心中事件に出くわす。
とにかく登場人物が多いのでそれぞれのキャラを把握するのが難しい。
女優千代子のかつての夫2人が不審死。そして、3番目の夫で画家の槙氏も台風襲来の夜に青酸カリで殺された?!
そして忠熈氏もゴルフの最中に狙撃。撃ったのは4番目の夫で作曲家の津村?

連載小説はとにかく冗長ムダ会話シーンが長い。それでいて状況が全然見えてこない。これはハズレだったかも…。まるでEQのライツヴィルシリーズのごとく必要のなさそうなシーンと会話だらけ。こいつは事件と関係なさそうだと思った箇所はささーっと読み飛ばした。

横溝らしさを期待してたのだが、昭和30年代ということで社会派推理小説のような雰囲気。怪奇趣味やおどろおどろしさはない。
昭和30年代なかごろの人々の会話が軽薄。現代を生きる我々にはよくわからない固有名詞や表現も多い。金田一さんのう〇こジョークとか最低だし、金田一さんが軽薄でよく喋る。

自分は横溝を頭の中で映像化しながら読むのだが、これは映画化はムリじゃないか。
だが、血液型やし色盲遺伝やらの知識から親子関係の疑問など古典的推理小説らしさが出てくるとイッキに横溝らしくなっていく。面白くなっていく。

昭和10年の叛乱クーデターとか、貴族の没落とか、斜陽を迎える映画産業とか、出生の秘密とか、戦争の悲劇とか、人間の運命の残酷さとか、横溝要素のてんこ盛り。
ラストでささーっといろんな人物関係や伏線が回収されて巻き返してきた。やっぱ面白いかも。
この真犯人や悪女たちの性悪さと酷さもザ横溝。やっぱりおどろおどろしい。

だがやっぱり長すぎる。自分は長編推理小説としての完成度はアガサ・クリスティーが一番だと信じてる。クリスティーはストーリーと関係のないムダ要素が少ない。
自分が好きな金田一映画が市川崑だけなのも、脚本家市川がクリスティーを尊敬していたからかもしれない。だから市川崑金田一は映画として面白い。

市川ならこの大長編のムダ要素や登場人物をバッサリ斬り落として10分の1ぐらいのボリュームに改作して楽しい名作映画にできただろうと思う。難しいだろうけど。
構成も大幅に変える必要を感じる。前の3分の2は回想シーンでよいとすら思ったw 2番目の夫の件は必要ないと思った。

「犬神家」「手毬唄」「獄門島」並みの傑作になる可能性は十分にある力作。誰か野心的な映画作家にお願いしたい。市川崑ならこう作った!というようなのを見たい。

あと、大勢の前でその人が色盲であることを暴き立てるとか今なら許されないのでは?と思った。
そして、関西人横溝先生は東北弁をまったく受け付けなかったかもしれないと思った。東北弁女性がまくしたてるシーンは東北訛をちょっとディスってるように感じた。そういえばNHK朝ドラ「あまちゃん」も関西では視聴率がよくなかったと聞いた。

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