2020年6月10日水曜日

横溝正史「火の十字架」(昭和33年)

横溝正史「火の十字架」の春陽文庫1997年新装第1刷版を見つけた。え?こんな作品まったく知らない。ひょっとしてレア作品?100円でゲットできてラッキー!と連れ帰った。

昭和33年「小説倶楽部」4月号から6月号に連載されたものらしい。角川文庫版は「魔女の暦」に収録されてるらしい中編。金田一耕助ものなのか。

浅草、新宿、深川の3劇場に3人の情夫を支配人として置いているやりてヌードダンサー星影冴子がこの話の中心人物。

星影の経営する浅草パラダイス座に、早朝呼び出された運送業者が、復員服に黒メガネとマスクで顔を隠した義足の男から、大きなトランクを新宿のパラダイス座へと運ぶように依頼される。

緑ヶ丘のアパートに犯行予告文のようなものが届いた金田一さんと等々力警部は朝6時の新宿の居酒屋で待ち構えている。
昭和30年ごろの新宿駅南口、甲州街道から新宿駅のあたりの描写が今読むと貴重。甲州街道沿いの農民たちは夜明けごろやってきて「下肥え」を畑に運んでいた?そんな人々がちょっと酒を飲んで休む酒場が?このへんのことは当時を知る人に聴いてみない限りわからない。

そしてトランクの中から睡眠薬で眠らされた星影冴子が全裸状態で発見される。そして、浅草では支配人の立花がベッドに縛り付けられ塩酸によって殺害されていた。このへんの描写が酸鼻を極める残虐さ。さらに、下谷ではダンサー富士愛子も首を絞められ殺されているのが発見される。

どうやら冴子と3人の情夫、そして愛子。この5人の共通点は戦前に旅回りの移動劇団にいた?そして「火の十字架」の刺青が?!犯人はこの5人に強い恨みを持つ小栗啓三?

複数の男女による「性の饗宴」とか、いかにもエログロ横溝っぽいのだが、わりとストーリーはしっかりしてる。それなりに読みごたえはあった。
だが、「ヌード写真の専門家」が、寝ている間に撮られた写真を「起きてる」と断言する場面はどうなの?って思ったw

他一編として収録されている「殺人鬼」(昭和23年)も読む。これは角川文庫「殺人鬼」で既読。今回読み直す。

前回初めて読んだときは登場人物たちの行動がよく理解できなかった。そこでそうなる?って。だが、2回目だとよく理解がすすんだ。中編ながら内容は充実しているように思えた。
昭和20年代は多くの人々の気持ちが荒んでたことがわかる。生きてても苦しいだけ。横溝先生にとって頭のいい女はたいてい悪女。

0 件のコメント:

コメントを投稿