新潮文庫の太宰治「ヴィヨンの妻」(昭和22年)を読む。戦後疎開先から三鷹へ戻った時期に書かれた8本の短編を収録した1冊。では順番に読んでいく。
親友交歓(昭和21年)故郷に疎開している太宰の元に「同窓会するから」と訪ねてきた小学校時代の旧友。だが、そいつにとくに記憶がないw こいつが無神経で無遠慮でとにかく太宰に心の声で罵られる。
トカトントン(昭和22年)「困ってます」という読者からの手紙。郵便局で働く青年の話。終戦後の混乱した雰囲気。
父(昭和22年)身重で風邪気味の妻と娘を米の配給に並ばせ自分は女たちと美味しくも楽しくもない酒を飲む最低男。一人息子イサクを殺そうとしたアブラハムのことを考える。
母(昭和22年)宿屋の青年に誘われ飲む。となりの部屋から聞こえてくる男女の会話。
軍隊で上官に散々殴られたせいで、軍服の森鴎外が嫌になって、全集を売り払ったという青年の話が面白い。
ヴィヨンの妻(昭和22年)お金の当てがないにもかかわらず無銭飲食して金まで盗んでくるダメ夫を持つ妻目線の話。生き抜くためにはその場しのぎの嘘とごまかし。
この妻がヤケクソで飲み屋で働きだしたらちょっと好転しかかる。終戦直後のギリギリ貧乏生活。
戦前は女を口説くのには華族の勘当息子と思わせるのが効果的だったと知った。
おさん(昭和22年)これも収入のないダメ夫を持つ妻目線だが、その結末は太宰自身の最期そのもの。気が滅入る。
家庭の幸福(昭和22年)長い間、三鷹の津島家にはラジオがなかったのだが、修治の留守中にいつのまにか家人がラジオを買っていた。お役人とのインタビュー録音がラジオに流れるという。
「官僚が悪いというけど民衆だってずるくて汚くて欲が深くて裏切ってろくでもないのが多いのだからアイコ」という太宰理論。
桜桃(昭和23年)子どもよりも親(自分)が大事という太宰。「生きるという事は、たいへんな事だ。あちこちから鎖がからまっていて、少しでも動くと、血が噴き出す。」
妻の妹は重態。4歳の長男の発育不良に悩み、作家は家庭から逃げるように執筆へ向かう。もう自殺しかない。家庭を持っても人は幸せにはなれない…という絶望。
PS. そして今日は太宰生誕111周年。
0 件のコメント:
コメントを投稿