2020年5月23日土曜日

吉村昭「海の史劇」(昭和47年)

吉村昭「海の史劇」を新潮文庫で読む。ロジェストヴェンスキー提督率いるロシア艦隊の出発から敗北、その死まで描く歴史ノンフィクション記録文学。

明治37年9月5日、フィンランド湾奥のロシア最大の軍港クロンシュタットを大艦隊が出航する場面から始まる。ロシア第二太平洋艦隊だ。日本側が制海権を握っている遠く日本海ウラジオストクまで150日間の大遠征。

だが、新造艦で訓練不足の水兵たち。出航してすぐに座礁。日本の水雷艇の危機という神経戦的噂。味方の艦を撃ってしまい死傷者。
北海では英国の漁船を撃ってしまい外交問題。中立国スペイン、フランスが石炭の積み込みを許可してくれない。ロジェストヴェンスキーは石炭の補給に終始頭を痛めてる。

そして不慣れな赤道の暑熱と食料飲み水不足で兵士が毎日死んでいく…などなど地獄のようなトラブル。早く行かないと旅順が危ない!と焦りまくり。

一方で日本連合艦隊も機雷と接触し6日間で主力艦2隻をふくむ7隻を戦火を交えずに失うという事故も起こしていた。旅順要塞攻撃では大量の死傷者。これは日本もロシアもどっちも大変な事態。
乃木将軍の無気力無能ぶりを知って衝撃。もっと早く児玉源太郎が現場に介入してくれたら、あまりに多すぎる将兵の死傷者を減らすことができた。

多大な犠牲を払った大航海に全世界も注目。大艦隊をカムラン湾まで運んだロジェストヴェンスキー第2太平洋艦隊はいよいよ朝鮮海峡を北上。津軽海峡か?宗谷海峡か?という選択肢もある中で連合艦隊側は朝鮮海峡に狙いを定める。本の中ごろになって遂に日露両艦隊が交戦。

以外にもこの本はずっとロシア艦隊側目線の記述が多い。てか、ロシア太平洋艦隊側からの日本海海戦をテーマにした本。敗者の側を描いているので結果として悲惨さの比重が高い。

日本にとっては圧倒的勝利と栄光だったのだが、ロシア側は戦艦1隻沈んだだけで800人、900人という規模で士官と兵士が死ぬ。日本海は5000人の死者を飲み込んだ。
でも、旅順要塞を攻めたときは日本側が悲惨。攻撃1回で毎回1500人単位で戦死者を出していたからどっちもどっち。どちらも人の命が軽い。

各艦のたどった運命が哀れ。生き残って捕虜となったロシア人たちが暗く落ち込んでて哀れ。
大怪我で人事不省となって生きながらえ捕虜となったロジェストヴェンスキー提督の苦悩!そして司令官を助けるべく降伏した将の辛さ。

この本のラスト5分の1はポーツマスでの講和会議と、捕虜たちのその後。
小村外相のギリギリの外交交渉は「ポーツマスの旗」とかぶる。日比谷焼き討ち事件も詳しく書かれている。

今回この本を読んでロシア人捕虜たちについて初めて知った。捕虜なのに増長しすぎw 日本のおもてなしに調子に乗りすぎ。特に松山の捕虜収容所は温泉どころか遊郭にまで行く捕虜がいる始末。日本は世界の一等国を意識するあまりハーグ条約順守に頑張りすぎた。捕虜を厚遇しすぎて批判もされる。シベリア抑留の日本兵は酷い目に遭わされたというのに。

日本に降伏したステッセル、ネボガトフ両将軍は祖国に戻ると軍法会議で死刑判決。後に禁固刑に減刑されたが哀れな最期だったらしい。ロジェストヴェンスキー提督も官位をはく奪され寂しい最期。
ソ連は第2次大戦でダントツに世界最大の死者を出した国だが、昔からその素養はあったような気がする。ロシアで仕官したり兵役についてはいけない。

PS. 「坂の上の雲」全巻を6年前に買ったのだが、まだ1ページもめくってないw

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