2020年2月2日日曜日

アガサ・クリスティー「魔術の殺人」(1952)

クリスティマラソン60冊目、アガサ・クリスティー「魔術の殺人」を田村隆一訳ハヤカワ・クリスティ文庫版(2004)で読む。
THEY DO IT WITH MIRRORS by Agatha Christie 1952
なんだか邦題と原題がぜんぜん違う。どちらからもどんな事件なのかまったく予想がつかない。

フィレンツェの寄宿学校時代の旧友ルースとマープル婆さんの会話から始まる。これまでに3回結婚したキャリイの一家に何か不吉なものを感じ取ったというルース。
そして、マープル婆さんは富豪キャリイの屋敷ストニイゲイト荘へ潜入捜査。

キャリイには最初の夫とこどもができなかったために養女ピパ(聡明な美人)を迎え入れたのだが、ほどなく実子ミルドレッド(不器量で愚鈍)が生まれた。ピパはイタリアで結婚後に娘ジーナを残して死去。
キャリイはリスタリック氏と2度目の結婚をするも、夫はユーゴスラビア人女と駆け落ち。夫の連れ後アレックスとスティーブンも屋敷でそのまま生活。スティーブンはジーナ(アメリカ人と既婚)に恋心。

3人目の夫セロコールド氏は会計事務所の経営者。未成年犯罪犯した子供たちを自立更生させる福祉活動に熱中し、変わった非行少年を集めて面倒をみている。エドガーという使用人は虚言妄想癖があるっぽい。
もう最初の50ページがあまりに登場人物が多くて混乱。

一家が今で団らん中、ちょっと頭のおかしいエドガーが勘違いから激昂しセロコールド氏と激しく口論。そして拳銃を2発発射。あれ?一発目は庭のほうから聞こえたような…。

結果、弾丸は壁に当たっていた。セロコールド氏も夫人もなんでもなかったと気に留めない。だが、看護婦兼秘書が警察に電話。事件にすることないのに!「違うんです。部屋で手紙を書いていたグルブランドセン氏(最初の夫の長男、キャリイにとっては継子)が射殺されているんです!」

グルブランドセン氏はキャリイ夫人が砒素を盛られている疑惑を抱いていてセロコールド氏と相談していた?やはり遺産相続が動機の事件か?

ジーナのアメリカ人の夫が途中でヒューズが切れたというので席を外していたので疑われる。クリスティの小説では「アメリカ人はギャング」「イタリア人は残酷」という偏見を持った英国人がよく出てくる。
2番目の夫の連れ後スティーブンは騒動と事件中ずっとピアノを弾いていた。だが、カリイ警部は楽譜の下からオートマチック拳銃を発見する。
警部はピアノにのっている楽譜を、もの思いにふけりながら、のぞき込んだ。「ヒンデミット?だれだね、これは?聞いたこともない名前だな。ショスタコヴィッチだと!おやおや、ひどい名前があるものだ」
アレックス、スティーブンの兄弟の母親がロシア人ということを踏まえて
「とにかく、ロシア人の関係することで、ろくなことがないというのが、カリイ警部の意見だった。」
クリスティを読んでいると当時の英国人の常識的見方が知れて面白い。
そして、アレックスと何かを目撃したことをほのめかす少年も殺される。

いつものクリスティらしく最後で、今まで見えていた構図は舞台転換のようにガラガラっとひっくり返される。

だが、実際にどのように殺人が行われたとか、マープル婆さんからほとんど語られないのは逆にびっくり。読者に察する力が求められる。
あの不自然な状況下での殺人は、スレた読者なら何かおかしいと感じるだろうと思う。クリスティはその現場にちょうどのタイミングで別の容疑者を登場させるなどの目くらまししてるけど。

「魔術の殺人」という邦題はまったく合っていないように感じる。自分なら「奇術師は鏡を使う」というタイトルがいいと思う。

こいつを読んだことで、ミス・マープル長編作は残すところ「牧師館の殺人」と「スリーピング・マーダー」の2作のみ。「牧師館」はすでに入手済みなのでいずれ読む。

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