是枝裕和カントクが「映画を撮りながら考えたこと」(2016 ミシマ社)という本を出していたのは知っていた。2018年に「万引き家族」でカンヌ・パルムドール受賞のタイミングで出た第5刷があるので読んだ。カバーには「テレビディレクター時代から『海よりもまだ深く』まで」とある。
この本で自分が面白かったのは終章での映画製作にまつわるお金の話だった。興行収入が3億なら半分が劇場収入で半分が配給収入。この比率は制作会社と劇場の力関係で決まる。
1億5000万から配給手数料と宣伝費を引かれて1億が出資者(製作委員会)へ。
1億出して1億戻ることはほとんどなくて、DVDと放送権が入ってとんとんになればよく、劇場だけで回収できるのは3%ぐらい。と是枝さんは語ってる。
10本つくって6本赤字、3本とんとん、1本ヒットで会社は成り立つ…んだそうだ。
「誰も知らない」が大ヒットしたけど、「歩いても歩いても」が興行的に大失敗だったことも語る。
映画人として考えているいろいろなことについて語ってる。東京国際映画祭のダメさ、助成金システムへの危機感も語ってるw
自分が一番興味深く読んだ箇所は「海街diary」。映画の成功はほぼキャストにかかってるらしい。
2007年に第1巻を読んで「海街diary」をドラマ化したいと考えたものの、連載中にすでに映像化権を押さえた人がいた!というので一度断念していた。
2012年になって映像化権が出版社に戻り、このとき是枝さんは映画化を目指して動き始めた。もし2007年にドラマ化してたら、綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずという、夢のようなキャストは実現していなかった。
是枝監督が広瀬すずをオーディションに読んでもらった当時、すずはまだほとんど無名。四女すず役を広瀬すずが演じたことは「海街」の奇跡。
ちなみに、映画でサッカー練習終わりにコンビニで肉まんを買って帰るシーンはすずたちのフリートーク。
海街は香田家のイメージにあう家が鎌倉でなかなか見つけられなかった。スタジオセットも考えたらしい。しかし、あの家を見つけたのはロケハンの奇跡。梅の木だけを持ち込んで植えた。
映画には3回法事が出てくる。タナトスに寄りすぎるということで三女佳乃の長澤まさみにはエロスを担当してもらったw
すずの視界がだんだん開けていることも表現していたのに自分は気づいていなかった。
冬は佳乃と早朝駅まで走り、春は友人と海へ行き、ラストは夏の鎌倉の街を山から見下ろすシーン。なるほど、広がってる。
父の葬式は「四姉妹」の葬式、祖母の七回忌は香田家の、食堂店主の葬式は街の葬式、という広がりも同時に描いていた!
祖母の七回忌で法事から戻ったときの香田家シーンでは、母(大竹しのぶ)がこの家でいかに邪魔な存在かを描いていた!
このシーンは自分も見たとき「情報量が多い」と強く感じたシーン。是枝監督も気に入っていたらしい。
しかも、前日に長澤まさみに画右隅でストッキングを脱がせるシーンを思いつく。助監督に相談したら「そんなのできない」。だが、「当日長澤さんにお願いしてみたら、やってくれた」とのこと。
そしてこの本は、ホームドラマから視野を社会に広げて、法廷モノにチャレンジしてみようと思っています。」で終わる。すでに「三度目の殺人」に着手していたものと思われる。
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