2019年7月5日金曜日

綾辻行人「フリークス」(1996)

綾辻行人「フリークス」(1996)を読む。2011年角川文庫版で読む。
長編小説だと思ってたら、3本の短編から成る一冊だった。

綾辻行人といえばたいてい叙述トリックで驚かされる作家なのだが、今回は精神病院の患者の日記形式。そもそも狂人の言うこと自体が、事実関係の認識と記憶において叙述トリック。どうしても読者は事実関係を注意しながら読むことになるのでハードルが上がる。

「悪魔の手 三一三号室の患者」(EQ 1992年9月号)
21歳で浪人生という青年が精神を病む母親を見舞うシーンで始まる。発狂した母親が父を殺し、自分をも傷つけた過去がある。

事件から1年経って、青年はグランドピアノの中から日記の入った鍵付きの箱を見つけ、母に箱を開けるように求める。すると中には自分が7歳の時に書いたという日記が出てくるのだが、自分は書いた記憶がない…。

書かれていることはまったく読者をミスリードするんだろうなという心構えで読んでしまった。それでもこのラストは予想外。エラリーや横溝を読んだ読者なら元ネタは「アレだな」とわかるかと。
だがそれでも十分に面白かった。

「四〇九号室の患者」(EQ 1989年7月号)
自動車事故で火だるまになり両足を切断し顔も大怪我を負って病室に寝たきりの主人公は記憶までも失ってしまった。自分は誰?
運転していて亡くなった夫の妻園子か?それとも愛人の沙奈香か?

やがて若い女を殺した記憶もよみがえる。記憶の場所を警察に掘り返してもらったとろころ死体が見つかる。だがそれは死後2年以上経った女性の白骨死体。

ラストで衝撃の事実がわかるのだが、自分としてはこのパターンはすでにそれほど新鮮ではなかった。だがそれでもやっぱり短編としては面白かった。

「フリークス 五六四号室の患者」(EQ 1996年1月号・3月号)
こちらは133Pなので中編。スランプ中の作家が、探偵だという友人に、精神病院に入院している患者が書いたという原稿を読ませる。

マッドサイエンティストが、人体改造を施した5人の奇形児のいずれかに惨殺されたという事件。それは問題編のみで解決編が存在しない。犯人は誰?
探偵は作家個人の個性に注目。

これは江戸川乱歩「孤島の鬼」オマージュ。ホラーに本格ミステリっぽい要素をプラスした作品。
作者はこの作品に自信を持っていたみたいだ。自分はそれほど結末に驚けなかったのだが、それでも筆者の力量に感心。

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