2019年7月3日水曜日

横溝正史「髑髏検校」(昭和14年)

ブラム・ストーカー「吸血鬼ドラキュラ」(1987)を読み終わってすぐに、今度は横溝正史「髑髏検校」(昭和14年)を読む。今回は講談社大衆文学館文庫版で読む。

この時代小説こそが「吸血鬼ドラキュラ」を翻案として江戸文化年間を舞台に横溝がリライトした怪奇時代小説。

物語は文化八年正月の外房州白浜に鯨が回遊してきて物見やぐらの鐘が打たれる場面から始まる。クジラ1頭で10村が3年は食べていけるという宝。浜は上へ下への騒ぎ。
そして場面は網元・仁右衛門が鯨奉行勤番・秋月数馬の元へ、鯨の腹から書状の入ったビードロが出て来た旨を知らせに来たというシーン。

また場面が変わる。江戸から長崎へ留学に来ていた蘭学生・鬼頭朱之助は勉学に勤しむあまりに神経衰弱。医者の勧めで老僕と小舟で釣りをしていたところ突然の嵐に遭難。
海を二昼夜漂い不知火の出る有明海の島へ。助かった!と思い上陸。そこには大きな御殿が!
そこにいる自称世捨て人の不知火検校という見たところ何歳なのかもわからない怪人物と、狼を支配する松虫鈴虫という二人の上臈が住んでいた。

朱之助は松虫鈴虫の名前の入った墓を発見。その真ん中にある四郎と書かれた寛永年間の銘の入った墓は苔むして読めない…。
不知火検校は江戸を目指して松虫鈴虫のふたりを引き連れて船で出航。朱之助は狼に包囲された御殿に置き去り。

そして今度は江戸鮫洲の浜御殿。ここには将軍斉昭の娘・陽炎姫が住んでいる。このお姫様が夢遊病。
陽炎姫の思われ人となったために秋月数馬は鯨奉行として南房州へ追いやられていた。
嵐の夜、怪しい光を放つ船が接近。吸血鬼が江戸上陸。陽炎姫に迫る。
陽炎姫の侍女が朱之助の許嫁・琴絵。夜中にふっといなくなった陽炎姫を探して外に出る。

吸血鬼と対決するのが剣の名手で碩学の鳥居蘭渓。よくできた次男が縫之助。長男・大膳は精神病で座敷牢にいて蜘蛛を飼う。

と、ここまで登場人物を挙げて来たのだが、これらがすべてブラム・ストーカー「吸血鬼ドラキュラ」を読んだ人ならすべて既に知ってる人々。設定と展開がほぼ同じでニヤッとする。それぞれが
  • 不知火検校(ドラキュラ伯爵)
  • 鳥居蘭渓(ヴァン・ヘルシング教授)
  • 鬼頭朱之助(ジョナサン・ハーカー)
  • 陽炎姫(ルーシー・フェステンラ)
  • 琴絵(ミナ・ハーカー)
  • 縫之助(アーサー・ホルムウッド)
  • 大膳(レンフィールド)
という役回り。鳥居蘭渓はヴァン・ヘルシングと精神科医ジャック・セワードの二人を合わせて一人にしている。

江戸の闇を切り裂く恐怖の悲鳴!異色の日本版ドラキュラ!まるで山田風太郎のような作風!
ブラム・ストーカーと比べてギュッとコンパクト。展開も早くて飽きさせない。
だが、裏切ったとはいえ知的障害のある息子を殺す父親とか、よく考えたらいろいろ薄っぺらい。

いっしょに収録されている「神変稲妻車」(昭和13年)という長編がさらに面白い!

信州高遠の新宮家に伝わる家宝の名笛をめぐって、剣士、妖術使い盲目法師、弦之丞と小百合の双子の美男美女兄妹、悪人たちが争うバトルロイヤル!

読んでも読んでも次々と新しい登場人物が出てくる。で、笛はいったい今誰が持ってるんだっけ?誰と誰が一緒にいるんだっけ?と混乱する。

たぶん草双紙とか黄表紙、講談、紙芝居のような、荒唐無稽な妖術を使う敵と戦う伝奇ロマン時代小説。
まるで少年ジャンプ的な展開。登場人物たちがイキイキとイメージできる。たぶん昭和初期の子どもたちも楽しく読んだに違いない。

ぶっちゃけ「神変稲妻車」は今まで読んだ横溝正史作品で一番楽しい。
「髑髏検校」は157ページの中編。「神変稲妻車」のほうが長編274P。

さらに、巻末に1976年1月の横溝正史(夫人も同席)と都筑道夫の対談も収録。ざっくばらんにいろんなことを話していて興味深い。

横溝がこの当時出たばかりのアガサ・クリスティー「カーテン」の感想を都筑に求めているのだが、これが駄作と断定してる。横溝も「クリスティーもあんな駄作を書くんだからと励まされたw」と言ってる。
ポアロが最期を迎える「カーテン」はエラリー・クイーン「レーン最後の事件」のために出版時期をずらす必要があったってマジ?!
角川文庫版も1970年桃源社版も同じくこのカップリング2作品収録。
「髑髏検校」は80年代に田村正和が不知火検校役でドラマ化もされていると今回知った。

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