2019年1月22日火曜日

上野歩「探偵太宰治」(2017)

上野歩「探偵太宰治」という文庫本をつい手に取ってしまった。なんじゃこりゃあ?と。

2017年7月に文芸社文庫から出た1冊。表紙を見る限り、どうもラノベという扱い?
まだ1年半ほどしか経っていないのに100円だったのでうっかり購入。

これ、太宰の有名なトピックを配置再構成してまとめ上げられた太宰治フィクション伝記小説らしい。

津軽の地主階級の名士の家に生まれ、東京帝大へ進むも講義を受ける気力もすっかりなくし、口から出まかせの言い訳と金の無心ばかり。実家との関係も悪くなり、生活費をかせぐ手段もない。どうしようもなさすぎて読んでいてとてもつらくなる。身につまされる。

非合法活動に関わり心中事件を起こし津島家の長兄から勘当されパビナール中毒。そして「晩年」を書く…といった主要なポイントのすべて網羅した伝記にいちおうなっている。それぞれの事件の合間を想像力で埋めて補間。しっかりまとまっていて感心する。

太宰の兄たちや親類、関係を持った女性たちも実名で登場。井伏鱒二も登場。
だがこういうの、太宰の遺族は嫌うんじゃなかったか?
そもそも表紙イラストも写真家・林忠彦(1918-1990)が太宰を撮った有名な1枚が元になってるし。いろいろ大丈夫か?

この本で描かれる太宰こと津島修治は高熱を出すと、恐山のイタコのようになり、隣村での神隠し事件を解決してしまうサイコホラーw 小作農の貧しさとこどもたちの悲しい末路も描く。ま、今の日本の貧しさもたいしてかわらないか。鎌倉での心中事件も勝手に解釈。

東京での生活費に困り探偵小説でも書こうと、太宰を高く評価する親友の檀一雄と一緒にバラバラ殺人事件までも捜査し解決w これがあんまり納得できるミステリーにはなっていない。

そもそもなんで「探偵太宰治」なんて書名にした?余計なミステリー要素を入れた?
これさえなければ、質の高い太宰治の伝記小説になってた。

妻ハツコとのやりとりやふれあいは味わい深いドラマ。このへんはぜひ映像で見てみたい。自分はうっかり面白く読めてしまったことを白状せずにはいられない。
「晩年」「二十世紀旗手」なんかを既に読んで、あらかじめ太宰のことが多少わかった状態いで読むと、きっとさらにこの本が面白い。

0 件のコメント:

コメントを投稿