2018年9月2日日曜日

綾辻行人「十角館の殺人」(1987)

綾辻行人「十角館の殺人」(1987)をついに読んだ。これものんびり探してたらそこに100円であったので拾ってきた本。自分が手に入れたものは1991年講談社文庫版の1993年第9刷。

調べてみたらこの本は若者の間ですら有名でとてもよく読まれていた。綾辻行人のデビュー作にして代表作という扱い。なんと累計100万冊を超えている。ひょっとすると日本ミステリー過去50年で一番有名な1冊かもしれない。

自分、時計館→水車館→迷路館と読み進めてやっと十角館へとたどり着いた。なんの予備知識もなく読んでだけど、どれもが「さすが!」とうならせる内容があった。とくに「十角館」は多くの人が「すごい!」「驚いた!」「傑作!」と絶賛してるのでかなり期待して読み始めた。

この本はアガサ・クリスティーの代表作「そして誰もいなくなった」とほとんど同じ構造を持っている。しかも冒頭で犯人らしき人物が犯行を告白した手記をボトルに詰めて海に流すシーンまである。

この本が「そして誰もいなくなった」と違っているのが、島と陸の両方で交互にそれぞれ断絶して物語が進行すること。
島に渡ったわりと聡明な部員たち、陸に残った部員たち、そしてあまり名探偵っぽくないちょっと変わった青年島田くんがそれぞれ事件を調査。この本は大分県が舞台。

脱出不能で外部と連絡もとれない孤島の十角館という、変わり者の建築家が建てた洋館に集まったK大学ミステリー研究部の男女が相互に疑心暗鬼になりながら、次々に殺されて行く…という最悪なシリアルキラーサスペンス。「時計館」「迷路館」とほとんどフォーマットが同じ。

自分はこの本を2晩かけて読み通したけれど、展開が飽きさせない面白さで1晩で読むことも可能だった。なるほど、この本は若者からも支持されて当然だわ。

なるべくネタバレにならないように核心部分は避けるが、これから読むという人は以下はささっと読み飛ばしてほしい。

この本を読んだほぼすべての人が第10章ラストの一言で「ええっ?!」と仰天する。ここで物語がガラガラっと音を立てて舞台転換していくような感覚を味わう。自分もかなり驚いた。

日ごろからよく読んでるクリスティ作品でも、章の最後の台詞で、なんとなく見えていた構図が突然ひっくり返される衝撃のようなものは体験してきていた。
だが、この「十角館」ではそれが特別に鮮明。というのもそれは登場人物たちがお互いをニックネームで呼び合っていたことがキモ。なるほど、これはわかりやすく劇的。

やはり読者を効果的に劇的に驚かす仕掛けは叙述トリックだろうなと思っていた。こいつも小説ならではの手法。映像化すると犯人がバレてしまう。

多くの人が名作中の名作と熱く語るので、読む前にだいぶ期待値のハードルが上がってしまったわけだが、生涯ベストになるほどには驚かなかった。

1987年とはいえ、1週間後に迎えの船が来るまで外部と一切連絡が取れなくなるような状況の島に滞在しようとは思わない。自分なら無線機とか伝書鳩とかゴムボートとか絶対隠し持って行くw
それに犯人のアレを目撃したからって「あっ!」って声に出すなよ。何か武器を持っていけよ。

これだけ大それた大量殺人に至った動機が自分の感覚からすると、物語としてあんまり美しさを感じない。「バカなの?」って思ったw 不幸な事故を逆恨みして、かつての友人たちをそこまで冷酷に殺していく?

真相部分が探偵が鮮やかに提示する形式でなく、真犯人の独白という心の声。それにラストの行動が自分にはいまひとつ物語のラストとして効果的に思えなかった。
島田探偵くんが暇にまかせていろいろと調査に行って、たぶんラストで真相に気づいたんだろうと推測するけど、やっぱり活躍してないしイカしてない。

あと、国東の摩崖仏の画を描きに出かけているという守須くんが「何となく思い立ってね、花が咲く前のその風景を、どうしても描いてみたくて。」と言う箇所に突っ込んだ。違和感を感じた。これも作者からの伏線だったのかも。

この著者は新装版が出るたびに一部修正してさらに精度を高めているっぽい。やはり新装版を読むほうがよいのかもしれない。乃木坂文庫版はたぶんレア。自分は一度も実物を見かけたことがない。伊藤理々杏かわいい。
これが館シリーズのベストとは感じなかったのだが、それでも十分に面白いしハラハラしたし驚いた。自分も強くオススメする。

2 件のコメント:

  1. せっかく綾辻行人まできたんだから、今度は歌野晶午も試してみてくださいよ。
    年間BEST2冠と日本推理作家協会賞を取った『葉桜の季節に君を想うということ』などで評価の高いマニアックな作家です。他の作品も傑作ぞろい、講談社文庫系が多いので安価で手に入りやすいと思います。
    なかでも『密室殺人ゲーム王手飛車取り』とその続編の『密室殺人ゲーム2.0』がお勧めです。
    チャットで繫がった匿名犯罪者たちの殺人計画披露会と推理合戦。バカミスというか奇想というか本格と言おうか、タイトルの軽さの割には密度が濃くスリリングな作品です。エンド近くでは『十角館』レベルの仰天が待っています。両方とも傑作ですが、『王手飛車取り』から先に読むと『2.0』の面白さは倍増します。



    YUIさん、おめでとう!・・・と心から言えないのが残念です。
    地元やアキバの大手を巡って,どこにもなくて、やっと渋谷でブルーレイを買った翌日ですからwwww。あああ、これでまたしばらく休眠してしまうのか!!

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    1. 歌野晶午は何度か手に取ったけどまだ読んでません。「葉桜の季節に君を想うということ」という本はよく見かけます。また週末から探します。

      自分も今回のyuiの件はコメントしずらい…。

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