2018年8月4日土曜日

城山三郎「辛酸」(昭和36年)

城山三郎「辛酸 田中正造と足尾鉱毒事件」の昭和54年角川文庫版の平成23年第33刷を手に入れた。100円。城山三郎にこんな本があるってこれを見るまで知らなかった。

自分、2015年春に渡良瀬遊水地に行ったとき谷中村の存在を初めて知った。そして過去3回ぐらい足尾にも行っている。いずれ足尾鉱毒事件と田中正造に関する本は読もうと思っていた。

巻末解説によれば城山三郎が「辛酸」を中央公論に発表した昭和36年に、まだ田中正造はほんの一部にしか知られていなかったらしい。それどころかこの時代はまだ「公害」という言葉すら世間にはなじみがなかったという。まじか。

しかもこの本は第1部で田中正造の闘争と活躍が終わり世間から忘れられ悲惨な野垂れ死にをするまで、第2部はその後が描かれている。
歴史ドキュメンタリーというより城山が田中の晩年にクローズアップした小説。足尾鉱毒事件のことを詳しくしろうという目的には馴染まないが、その時代は感じられる。

第一部では立ち退きを拒否して谷中村にとどまった村人たちの悲惨な生活が描かれる。国と県は留まった村人の家屋の破壊までしていた!

適切な補償がなされていないために村人も金を受け取ってどこかに行くというわけにもいかない。村人の分断を謀って飴と鞭。雨が降ってるのに家がない村人の生活が悲惨。政府も官憲も冷酷非情なマシーンと化してる。大隈重信は何をやっている!明治も現代もたいして変わってない。

「辛酸」というタイトルがぴったり。県の役人、警察の嫌がらせとかほんとに酷い。読んでいてひたすらつらい。明治時代の貧しい農民たちが日々生活するだけでやっとなのに訴訟とか陳情とか絶望すぎる。

0 件のコメント:

コメントを投稿