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2017年2月19日日曜日

生物と無生物のあいだ(2007)

講談社現代新書から出ている「生物と無生物のあいだ」(福岡伸一 2007年)という新書を読んでみた。友人が持っていたから。

大学受験で化学を選択した自分は高校生物の授業をほとんど流して聞いていたために、あまり生物学になじみがない。

この本は生物学のセンセイが、自身の研究者としてのこれまでの歩みを語りながら、分子細胞生物学の歴史トピックを解説する1冊。自分が読んだ本は2016年の第45刷。

まず冒頭で、日本人なら誰でも知ってる千円札の肖像・野口英世(1876-1928)が細菌学の世界ではまったく忘れ去られた存在であることが語られる。えぇっ?!そうだったの?!
「パスツールやコッホの業績は時の試練に耐えたが、野口の仕事はそうはならなかった」 
「野口の研究成果は当時こそ賞賛を受けたが、多くの結果は矛盾と混乱に満ちたものだった。その後、間違いだったことが判明したものもある。」
赤痢菌の単離に初めて成功し、米国における近代基礎医学の父と呼ばれたサイモン・フレクスナー(1863-1946)の後ろ盾を得た野口、努力しハンデを乗り切り多くの輝かしい成果を挙げたのだった。
だが、当時まだその存在を知られていなかったウィルスは顕微鏡では見えなかった。病原体特定のステップで陥穽に落ちた。野口は小保方さんだったのだ…。

ちなみに、世界で最初にウィルスを発見した人はロシアのディミトリ・イワノフスキー(1864-1920)。タバコモザイク病の原因が、大腸菌や赤痢菌のような単細胞微生物よりもはるかに小さい細菌であることを初めて想定した。

「遺伝子の本体はDNAである」ことに最初に気づいた人は米国のオズワルド・エイブリー(1877-1955)。4種類のヌクレオチドだけで高度な遺伝情報が伝えられるとは信じられていなかった時代に地道な研究での偉業だった。

「どのような起源のDNAであってもAとT、CとGの含有量は等しい」ことに最初に気づいたのはアーウィン・シャルガフ(1905-2002)。

それまでは特定の大腸菌にたよるしかなかった中、ポリメラーゼ酵素とプライマー(短い合成一本鎖DNA)と十分なヌクレオチドを入れたチューブの温度を上げ下げすることで、2時間でDNAを10億倍以上に増やす魔法の装置PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)マシンを発明したキャリー・マリス(1944-)の業績を讃える。

ケンブリッジ大学キャベンディシュ研究所のジェイムズ・ワトソンフランシス・クリックによる「DNAの構造が二重らせんである」という大発見の裏に、ユダヤ系英国人女性でX線結晶学の専門家・ロザリンド・フランクリン(1920-1958)の撮った写真データが決定的に重要だったことにも触れる。

そして、その写真をクリックに見せたといわれるモーリス・ウィルキンズ(1924-2004)の弁明と歴史秘話を、著者は研究者視点から解説。理論が準備された人にこそひらめきは降りてくる。

エルヴィン・シュレーディンガー(1887-1961)が「生命とは何か」で、初めて生物と原子の大きさの関係に注目。そして、エントロピー増大による平衡状態(死)を回避するために生物は「負のエントロピー」を摂取する…という概念へ到達。
これからは食事を「負のエントロピー」と呼ぶことにしよう。

ルドルフ・シェーンハイマー(1898-1941)は重窒素、重水素といった同位体の追跡することで、体内に取り入れられたアミノ酸、脂肪は、実は分子レベルでは日々入れ替わっていることを発見。生物は見かけ上、貯めてる風を装って、じつはどんどん入れ替わってる。「生物とは動的平衡にある流れである」

最後に著者は自身が携わった細胞膜を司るPG2というタンパク質についての実験の日々を綴る。

遺伝子を人為的に破壊してその波及効果を調べる実験をノックアウト実験という。
生物の生存に必要なはずのタンパク質をつくれなくなるように特定の遺伝子をノックアウトした状態にしたマウスに影響がでないという驚きの結果。

だが、不完全な一部を切り取った遺伝子のノックインは、マウスに致命的な異常をもたらすことを提示する。このことから生物と機械の違いには「時間」というものが重要らしいことを語ってこの本は終わる。

一部イメージしづらい話もあったが、多くの知識を得た1冊だった。なるほど、この本は高校生にもオススメできる本だった。

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