2016年8月14日日曜日

城山三郎 「落日燃ゆ」(1974)

この本を読むのは2回目。実は昔この本を持っていたのだがまた買いなおした。
城山三郎「落日燃ゆ」(新潮文庫)の平成25年の第63刷版。

死刑判決を受けたA級戦犯7名の中で唯一の文官で外交官出身の元首相・広田弘毅(1878-1948)について書かれたもっとも手に入りやすく有名な1冊。

これ、自分が高校1年のとき初めて読んだのだが、当時はまったく理解できなかったw
第1次大戦から日本の敗戦までの外交や組閣人事を扱った本なので、子どもにはまったく理解できなくて当然だ。
今ならちょっとはイメージできるようになってきたので理解できるかも…と手に取った。

城山三郎って、官僚を主人公にした作品が多いイメージ。この本でも前半のほとんどが外交官としての立身出世と人事、ライバルたちの物語。外交官ってこういう感じで出世していくんだなって知る。

福岡の石材加工職人の長男として生まれた広田弘毅は小学校を出たら職人になるはずだった。
だが、神童ぶりを発揮し、クラスで3~4人しか進学しない時代に中学高校へ。一高→東大と進んで2回目で外交官試験にパス。北京やロンドン、モスクワを回っていくと重要なポストが与えられるしくみ。吉田茂が外務省で同期。上司の幣原喜重郎とはウマが合わない。

やがてソ連大使に。斎藤実内閣で外相に就任。東支鉄道買収交渉で手腕を発揮。
人柄がよく外務省の中でもとても人気のあった人らしい。交渉相手からも信頼された。

近衛文麿の説得で2.26事件の直後に総理大臣に就任。平民宰相と呼ばれる。
この人が政治の表舞台にいた時期が中国でどんどん戦局が拡大していく時期。外交の相手が軍部になっていく。
寺内陸相と浜田国松代議士との帝国議会での割腹問答の末、閣内不一致で総辞職。和平を口にするばかりでグズ扱いされ軍部からは嫌われた。広田を歴代総理でもっとも無能な部類に入れる人もいる。

だが、陸軍という組織が酷い。もう誰が首相になっても軍が気に入らなければ陸軍大臣を出さずに組閣を妨害。広田であってもなくても誰が総理をやったってズルズルと日中間の戦争に引きずり込まれる。近衛を担ぎ上げておいて近衛の言うことすらも聴かない。

近衛が首相に就任すると、湘南の鵠沼で隠遁生活をしていた広田に外相就任を要請。これが後に広田の命取りに。
盧溝橋事件、南京事件、英米との関係悪化…。和平交渉の糸口をすべて軍に邪魔されるw
早いとこ辞任して逃げ出せばよかったのに。
何事もヤバい時期に責任ある重要なポストにいるのはダメ、ゼッタイ。

この本を読む限り広田には何も戦争犯罪らしきことが見当たらない。A級戦犯としての起訴からして誤解だし、死刑判決も誤解。悪名高いキーナン主席検事でさえ「重すぎだろ!」とツッこんだ。

近衛も杉山元もめぼしい責任者はみんな自決。元首相で外相3度も務めた広田に責任を取らせるって結論ありき。広田は右翼の親玉のように見られてしまった。日本の歴史に詳しくない検察側が無知をさらした裁判。

広田の一切の弁明をしないという裁判への態度が自殺行為。広田は母も息子も妻も自殺してるからもう自分の命もどうでもよくなっていた。
助命嘆願を無視して死刑を執行してしまった連合国とGHQとアメリカ政府は酷い。マッカーサーも吉田も積極的に介入しなかったので同罪。
ウェッブ裁判長は永遠に呪われていい。コイツの存在も負の遺産として語り継ぐべき。

PS. 広田首相のトリビア
国会議事堂が完成して初めて議会に登壇した総理大臣が広田弘毅。あと、文化勲章を制定したのも広田内閣。

PS. 城山三郎の著作はこれしか読んだことがない。ちなみに、長澤まさみはドラマで城山三郎の妻を演じたことがあるw

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