ゾルゲ事件についての本を初めて読んでみた。
「国際スパイ ゾルゲの真実」(NHK取材班 下斗米伸夫 1992)
ソ連崩壊後の1991年に取材、放送されたNHKの番組の1992年の角川文庫版。108円で購入。
ゾルゲ事件については以前から関心があったので、手軽な1冊かと思って手に取った。
リヒャルト・ゾルゲという名前は日本人にとってぞわぞわ~っとする恐ろしい名前。日本人からすると、こいつのおかげでどれだけの日本人が人生を狂わされたか…。
ドイツ人石油精製技師とロシア人の母親の間にアゼルバイジャン・バクーで生まれる。ドイツで裕福な少年時代を過ごし、第1大戦に従軍、3度の負傷で療養中にマルクス主義に目覚め、ドイツ共産党へ入党しモスクワへ。歴史、政治、経済、中国の専門家。
上海でアグネス・スメドレー女史や尾崎秀実と知り合う。ナチ党員資格を得て偽装。そして日本へジャーナリストとして入国。
ゾルゲはドイツ大使館から、尾崎は近衛側近グループから国家の重要機密を得てモスクワに連絡したスパイ。豊富な日本知識によって情報を分析し独自の判断ができた。
酒好きで人間的に魅力があったらしく、駐日独大使とも親交を結ぶ。ナチスから「経歴がうさんくさい」と疑われて派遣されたゲシュタポとも仲良くなるw
独ソ不可侵条約に安心しきっていたスターリンを欺いたバルバロッサ作戦の脅威と開戦時期、日本が独ソ戦には日和見を決め込み当分対ソ参戦しない、などの日本人も知らなかった決定的重要スクープ情報をモスクワに伝えた。
だが、この本を読んで、スターリンは本当にサイテーなドイヒー野郎だってことを一番に感じた。
独ソ開戦初期の絶体絶命ぶりはスターリンがゾルゲからの電文(ラムゼイ報告)を「信用できない」と無視したから。そのせいでソ連は多くの兵士と戦力を失った。ソビエト市民にとってもスターリンは超無能野郎。
ソ連は極東で日本の対ソ参戦がないという情報のおかげで20個師団を西部戦線に移動できた。結果、対ドイツ戦に勝てた。
近衛内閣が総辞職した翌日にゾルゲは逮捕。そして、スターリンはゾルゲを見捨てた。
日本政府は非公式にソ連と接触。ゾルゲの件で対米和平交渉のカードにできないか探りを入れたのだが無視されたために、ゾルゲと尾崎はあてつけで1944年の革命記念日に死刑執行…。
スターリンは祖国のために命がけで重要な情報をもたらしたローゼンバーグ夫妻のようなスパイであっても、「捕らえられたスパイは裏切り者」として容赦なく切り捨てる。
そして外国勢力のスパイ事件が発覚すると、運転手から電話交換台まで無実のロシア人でさえ容赦なく死刑にしてる。ある意味ソ連の秀吉。反対勢力は大粛清。
スターリンにとって英雄ゾルゲは自分の判断ミスを目立たせる邪魔な存在。ソビエト市民にいっさいその存在を知らせずに抹殺。
さらに酷いのがロシアでひたすら夫の帰国を待ってただけの妻もドイツのスパイとしてシベリア送り。
ゾルゲはフルシチョフの時代になって名誉回復。ソ連の英雄に。
なんで奇襲で窮地に陥っていたソ連を日本はドイツと一緒にぶっ潰しておかなかったのか?大チャンスを見逃したのか…、痛恨。
スターリンさえ息の根を止めておけば、北方領土問題も、満州に残された日本人の悲惨な運命も、シベリア抑留もなかったかもしれない。ロシアの人々だってそのほうが幸せだったはず…って妄想。今もロシア人はほとんどがスターリンと同じ思考回路の日本観を持っている。
この本を読んでゾルゲ事件の概要と、戦時中の日本の対ソ関係、対独関係も知ることができた。
だが、ゾルゲ・スパイ団のメンバーたちのその後については何も書かれない。アバス通信特派員ヴーケリッチ(網走で獄死)、無線技師クラウゼン(死刑判決を受けるも米軍の進駐で釈放、後に東ドイツへ)、宮城与徳(東京拘置所で獄死)といった人物のことも知りたかった。
PS. さいとうたかお作の特撮ヒーローテレビドラマ「超人バロム1」(1972 日本テレビ)の「ドルゲ魔人」「○○ゲルゲ」がリヒャルト・ゾルゲと何か関係があるのか?調べてみたのだが不明。
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