2016年1月26日火曜日

江戸川乱歩 「芋虫」(昭和4年)

ひきつづき角川ホラー文庫版・江戸川乱歩ベストセレクション②「芋虫」を手に入れたので読む。

これもやっぱりイラスト風表紙が気に入らなかったのだが他に選択肢もないので買って帰った。108円。

9作の短編が収録されているが、うち2作品「芋虫」と「双生児」は昔、英訳本で読んだことがあるのでストーリーは知っている。そして「赤い部屋」は先日買った春陽文庫版「D坂」にも収録されていたのでかぶってる。

「芋虫」(昭和4年 新青年)
戦争から帰ってきた夫は4本の手脚を失い、聴力と声帯を失っていた。顔面も酷く傷つきかろうじて二つの眼の穴だけが残っている。
自分はこれほどまで伏字だらけの小説を読んだことがない。当初は左翼的な「改造」に掲載予定だったのだが、内容が反戦的と当局から睨まれそうだったので「新青年」に掲載。
30歳の妻の心に起こる醜い感情、そして悲劇…。
ま、介護の現場とか現代に通じるテーマだな。グロテスクで暗い。

「指」(昭和35年)
わずか3ページの作品。「ヒッチコック・マガジン」に掲載されたもの。昭和3年の随筆がオリジナル。オチが乱歩っぽくない…と思いきや、前半を乱歩、後半を別の人が書いたもの。それほど価値を見出せない作品だった…。

「火星の運河」(大正15年 新青年)
これも推理ものでなく詩的で幻想的な9ページの短編。ま、夏目漱石の「夢十夜」っぽいなって思った。これもあんまり読む必要を感じなかった…。

「白昼夢」(大正14年 新青年)
これも怪奇幻想的な短編。死体の隠し場所というテーマに通じる。このパターンは「少年探偵団」シリーズでもたくさん見た気がする。

「踊る一寸法師」(大正15年 新青年)
乱歩の作品にはよく、いわゆる「小人症」の人が登場する。乱歩は「一寸法師」と表現してる。イジメ→ブチギレ大惨事という「キャリー」型ホラー。これもあまり価値を見出せなかった。

「夢遊病者の死」(大正14年 苦楽)
この短編はわりと面白い。これも現代に通じるテーマだな。自身の病気に悩む主人公に起こった不幸を描いてる。これは映像化したら面白いかと。

「双生児 -ある死刑囚が教誨師にうちあけた話-」(大正13年 新青年)
これもわりと有名な作品。双子の兄を殺したという男の独白。指紋のトリックがメインだが、姿がまったく同じ双子の弟が兄を殺す情景のおぞましさが乱歩っぽい。戦前の遺産相続のルールって酷くね?って話。

「赤い部屋」(大正14年 新青年)
これは自分の持ってる他の本とダブり。2回目だけど読んでみた。暇つぶしで100人殺した…という男の独白。ま、意図的に間違った情報を教えて死なせてしまった…といった消極的で罪に問われない殺人の告白。ま、最後のオチもそれほど面白くもない。

「人でなしの恋」(大正15年 サンデー毎日)
それほどの器量でもない19歳の娘の嫁ぎ先は人も羨むような立派な旧家の美青年。だが、どこか自分とは別の何かに心をとらわれているようで…。
これも現代と通じるテーマだな。オチは現代人ならわりと想像がつきそうだ。
今回読んでみた9作品では面白かったのは「夢遊病者の死」ぐらい…。

PS. NHK BSプレミアム「1925年の明智小五郎」第3話「屋根裏の散歩者」を見たわけだが、一番重要な犯人役に柔道選手をもってくるとか、キャスティングが奇をてらいすぎだろ。最初、千原ジュニアかと思った。
それに、満島ひかりの明智小五郎、なに、この小動物みたいな明智。なに、この学生服みたいな衣装。こんなのプロデューサーが満島ファンだった、としか思えん。

ええっ?!ほとんどのシーンがクロマキーCG。お金かかってないw 謎を解く明智と犯人・郷田の会話シーン、何これ?w 行間に書いてない動きを好き勝手解釈。フザケすぎ。一体これのどこが「ほぼ原作通り映像化。」なんだろうか。

「郷田くん、郷田くん」「やあ、失敬失敬」、現代人が大正時代の人物を演じるのはムリがあるのだが、こんな棒読み演技なら違和感ない…って、そうでもない!でも、ちょっと面白かった。

満島は子どもの頃からシワシワ貧相アイドルだと思っていた。だが、ここではまるでアニメのような質感の顔になってた。初めてカワイイと思えた。これからは満島出演作を個人的に解禁しようかと思う。

自分に権力があれば能年にやらせてただろうと思う。付け髭シーンを見て、能年が「なんで私じゃないの?」って地団駄踏んで悔しがってるかもしれないな、って思った。

なんか、芦田愛菜が事件を解くドラマがあったっていいな、って思えてきたw

2 件のコメント:

  1. 「屋根裏の散歩者」も乱歩の代表的な短編ですね。
    下宿屋の天井から覗く人々の意外な裏の顔を殆どカットして、被害者に絞ってたのがちょっと惜しい。
    けど、篠原には全然しゃべらせないで、國村隼の語りと満島のセリフで進行するところが上手かったかも。
    もう短編で明智の出てくるのは「黒手組」と「幽霊」ぐらいしかないので、続編はないでしょう。
    乱歩の長編は「孤島の鬼」中編は「陰獣」、短編は「押絵と旅する男」。
    ブロガーさんは「陰獣」を映画で見られたでしょ? 「孤島の鬼」以外の長編は、レベルを落としたエログロ紙芝居だから(ボクはむちゃ好きだけど)お勧めできません。


    そろそろ御手洗潔シリーズなんかどうですか?
    存命作家では一番のカリスマ島田荘司。
    「占星術殺人事件」「斜め屋敷の犯罪」「異邦の騎士」・・・。ガチのエンタ本格ですが、他には社会的な問題を扱った作品もあります。
    もう1人・・・(しつこくてごめんなさい。悪い癖です)
    ここ2年間、ミステリの各賞を総なめしてNO1に上り詰めた米澤穂信。初期の出世作「さよなら妖精」(昨年のNO1 『王とサーカス』はこれの続編です)。
    これはブロガーさんの感性に必ず嵌ると思うんですけど・・・。安く手に入りますよ。ぜひ探してみてください。

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  2. 実相寺版「屋根裏」は良かった。テレビドラマであのクオリティは望めないのわかってた。國村隼の語りは格調高くていい感じ。
    でも、最後のドア窓に頭ぶつけて遺影になるのはヘンすぎて、何かの引用パロディ?とか考えてしまい釈然としない…。

    島田荘司ってよく見かける名前だけどまだ1冊も読んでないです。カリスマなんですか。じゃあ、次回から探してみます。
    米澤穂信も未読。これも今後探してみます。「インシテミル」って映画を手に取ろうとしたけど未だ未視聴。

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