2015年10月4日日曜日

サイモン・シン 「フェルマーの最終定理」

英国の科学ジャーナリストによるベストセラー「フェルマーの最終定理」(サイモン・シン青木薫訳)の新潮文庫版を手にいた。数年ぶりに読み返した。

自分はこの本を2000年以降、講談社のペーパーバック版、新潮社の邦訳ハードカバー版と読んでいた。そして今回、文庫版を108円で見つけて買ってしまった。
この本は何度でも読みたい1冊だし、誰にでも薦めたいとても面白い1冊。この本は新潮文庫の100冊にも選出されている。

17世紀フランス・トゥールーズで裁判の仕事に勤しむ役人でアマチュア数学者だったピエール・ド・フェルマーは、ギリシアのディオファントス(この人は西暦250年ごろの人物とする説が有力だが、なんと諸説では前後500年の開きがある)が編纂した「算術」の2巻、「ピュタゴラスの定理と3つ組数に関する説明、問題と解答」の余白に
「3 以上の自然数 n について、xⁿ + yⁿ = zⁿを満たす0でない自然数 (x, y, z) の組が存在しない」、そして「その真に驚くべき証明を持っている。余白が狭くてここに書き記すことができない」 
と書き残した。
これが「フェルマーの最終予想」と呼ばれる300年間大数学者たちの挑戦を跳ね返し続けた超難問。
フェルマーは同時代の数学者と交際がなく、自身の研究成果を発表することもなかったため、死後になって息子が出版するまでその存在はまったく知られることがなかった。

1993年の夏、ケンブリッジ・ニュートン研究所でアンドリュー・ワイルズが歴史的講義を行う。翌日に英ガーディアン、仏ル・モンド、米ニューヨーク・タイムズ紙の一面を飾る。フェルマーの最終予想が証明された!

ワイルズの証明には穴があったのだが1年後には「修復」に成功。この論文は100ページ以上あって、専門家でもごく一部の人しか理解できないというしろもの。
だが、ワイルズ博士の完璧な証明の輝かしい業績の価値は以後不動。

フェルマーの最終予想が証明されるブレイクスルーの歴史は

フェルマーの死から100年後、レオンハルト・オイラーが背理法を使ってn=4の場合を証明、続けてn=3の場合も証明。この段階で虚数iが登場。nが素数の場合を証明すればいいという段階まで狭まる。

革命期フランスの女流数学者ソフィー・ジェルマンが限定された素数での証明に成功。

ジェルマンの方法によってルジャンドルとディリクレがそれぞれ独立にn=5の場合に解がないことを証明。
n=7の場合で解がないことを証明したガブリエル・ラメ、そしてオーギュスタン・コーシーが「証明」にあと一歩まで迫る。

だが…、エルンスト・クンマーが「素因数分解の一意性」は虚数の場合成り立たないんじゃね?と指摘してからこの問題は完全に停滞…。
その後、クルト・ゲーデルが「不完全性定理」を発表。すべての数学の問題を数学で証明するの無理だわ…って雰囲気に。以上が18世紀から20世紀初頭までの流れ。

1950年代になって決定的ブレイクスルーがなんと日本から生まれる。谷山=志村予想だ。「すべての楕円方程式はモジュラー形式に関連付けられる」…、ま、なんのこっちゃさっぱりだが、この本では谷山豊と志村五郎について多くのページを割いている。
これによってまったく関係ないと思われていた数学の分野が結びついた。

80年代、ゲルハルト・フライが「谷山=志村予想を証明したら、フェルマーの最終予想を証明したことになるんじゃね?」と言い出す。それをケン・リベットが証明。

6年間隠遁生活を送って秘密裏に「フェルマーの最終予想」に取り組んでいたアンドリュー・ワイルズがガロア数論サイドから、コリヴァギン=フラッハ法という新しい楕円方程式の分析方法を使って谷山=志村予想を証明することに成功。
その小さな穴を岩澤理論でふさぐことに成功!1995年5月、「アナルズ・オブ・マセマティクス」に論文掲載、疑いようのない大成功!というのが300年のざっとした流れ。

この本はそんな300年の数学者たちの挫折とブレイクスルーのドラマをエピソード満載で感動的に教えてくれる1冊。

巻末で「ケプラー予想」「四色問題」といった難問にも触れている。未解決の難問は今後はコンピューターによる「力ずく」の計算による解決が増えるんじゃないかという予想も。

だが、無限というのはくわせものだということもこの本から学んだ。
オイラー予想「x4 + y4 + z4 = w4を満たす自然数の解 (x, y, z, w) は存在しない。」という200年間不落の難問が1980年代になって
26824404 + 153656394 + 187967604 =206156734という反例が見つかってしまう!

そして「過大評価素数予想」!15歳のガウスは素数の出現頻度が数が大きくなるにつれて減少していくおおよその予想を公式にしたが、それはかなり正確であっても、実際の素数の分布よりもわずかに多めだったのだが、ある大きさ(ここでは記述不能)を超えると少な目になる!

よって、どれだけ大きな数を計算して「大丈夫だろう」って思っても、それは数学的に証明したことにならない、って学んだ。

あと、数学史のトリビア
ピュタゴラスは√2が無理数であることに気づいた弟子を殺した。
数学は命がけだなって思った。

あと、フェルマーが「真に驚くべき証明」と書き記した、17世紀に知られた数学知識だけによる証明を誰かに見つけてほしい。フェルマーの証明はラメやコーシーと同じ失敗をしていたという説が有力だが…。それと高校数学だけでわかるような証明もほしい。

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