2015年10月27日火曜日

市川崑 「ぼんち」(1960)

山崎豊子の原作、市川雷蔵の主演で市川崑がメガホンをとった「ぼんち」(1960 大映)を見てみた。

へえ、市川雷蔵と市川崑の映画があったのか~って思って手に取ったけど、それは古い日本映画に詳しい人が聞いたら失笑かも。自分は時代劇にまったく興味ないからな。

成り上がり1代記…ではなく、大阪船場の足袋問屋の5代目喜久治の没落1代記を描いた日本映画の黄金期豪華キャストによる1本。

市川崑は昔から市川崑だった。斬新で昔の映画を見ている感じがしない。宮川一夫カメラマンとの黄金コンビによる大胆なカットに釘付け。テンポが良くて画面にずっと緊張感があって締まっている。見ていて飽きない。

活気に満ちた大阪の風景。噺家がある家の隠居に呼ばれる。その老人は妾の子に養われている。酒とすしを持ってくるようにと老婆に言いつける。「奥さんでっか?」「いや、女中頭」。

高度経済成長まで日本の商人たちは江戸時代から変わってなかった。大阪経済圏は昭和の初めまで東京圏より大きかったって今の東京の若者たちで知ってる者は少ない。大阪船場の商家でどんな会話がなされていたのか?大変に興味深く見れた。とにかくネチネチと嫌味ったらしい(笑)。正直意味のわからない言葉も多かった。

「1代限りの成り上がり」の家からの嫁(中村玉緒)を「家のしきたり」でいびる。何度も何度も「船場のしきたり」って言葉が出てくる。喜久ぼんの母(山田五十鈴)と祖母(毛利菊枝)の傲慢で威張った感じとふてぶてしさ!「家の信用に傷がつく」からと子どもだけ引き取って最初の嫁と離縁させる。ギスギスしたやりとりが酷いw 

跡取り息子の若旦那、着物を着せるのも、風呂で背中を洗うのも女中の仕事。すげえ。

昭和の恐慌、銀行の取り付け騒ぎの映像とか今では出せない雰囲気。人々の顔つきが今の上海証券取引所みたいだった。

芸子ぽん太(若尾文子)が本宅へ初めてあがったとき、母と祖母が「月のものは何歳から?」とか信じられないことまでも訊く。
妾腹子どもが男の子なら5万円、女の子なら1万円渡せば何も言わなくても縁が切れるとか、今ではまったくありえない失礼な発言だらけ。大阪商人おそるべし。日本はつい最近までこんな国。人権の感覚は数世代を経てだんだんと良くなっていったんだな。

そして戦争で船場は焼け野原。豪商の没落…っていうと暗いイメージだけど、この映画は軽妙洒脱。面白かった。「もう女はこりごり」と言う市川雷蔵、若くして名優だった。名画を見たって感じ。

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