2015年6月29日月曜日

アンドレイ・タルコフスキー 「サクリファイス The Sacrifice」(1986)

タルコフスキー監督の遺作となった「サクリファイス The Sacrifice」(1986 スウェーデン)を見てみる。

タルコフスキー映画はすべてロシア語かと思っていたのだが、この映画はスウェーデン語。初めてスウェーデン語にふれる。149分、この映画も相当に長い。

元舞台俳優のアレクサンデル、その妻と娘、口のきけない息子、そして家政婦。核戦争後の世界の救済を願う男を、ひたすら叙情的に「犠牲」をテーマに描く…。

オープニングからバッハのマタイ受難曲のアリア「憐れみたまえ、わが神よ」が流れて宗教絵画をカメラがナメ回す。これ、タルコフスキーの個性のひとつか?

男が息子に語りかけながら、海岸に枯れ木を植える。手順を規則正しく守ることの大切さを説く。そこに郵便配達人がやってくる。これがロングショットでワンカットが異常に長い。舞台演劇を見ているよう。ひたすら男の独白を聴かされる。

友人の医師ヴィクトルとの会話でアレクサンデルが役者を辞めた理由が語られる。そして郵便配達人オットーが誕生日プレゼントの17世紀ヨーロッパの古地図を持ってやって来る。「受け取れない」と断るが、「犠牲があってこそ贈り物だ」と言う。オットーも高校教師を退職してこの島に移り住んできた。ひたすら会話劇…。

国民に向けた核戦争が起こったという放送、激しくパニくる妻、犠牲を捧げる祈り…。画面から状況を判断するしかない。

オットーはちょっとおかしな人だった。「対岸の家政婦マリアの家に行って魔女マリアと寝ろ」と強く勧める。それがすべてを止めるためだと。「ニーチェにかぶれてる」と罵るアレクサンデルだったが、ヴィクトルがカバンに隠し持っていた拳銃を持ち出し、オットーの自転車でマリアの元へ向かう。マリアに救いを求め抱き合う…。尺八の音が流れる。

翌朝、核戦争はなかったことに…。何これ?夢オチ?!ヒステリックな妻とヴィクトルの会話でだいたいのことはわかったけど、最後の最後までブラックコメディだとは思ってもみなかった。スウェーデンにも痴呆老人って多いんだろうな。

カンヌの批評家たちから絶賛されたのかもしれないけど、ごめん、見ていて困惑しかしなかったわ。難解すぎてダメだこりゃ。残された家族が「犠牲」になってるわ…。

退屈の果てに家がきれいに燃える映画…。2時間半を返せって思ったわ。見た人もある意味「犠牲」。

いろんな意味で頭おかしい人を自由にさせるのが一番怖い…って思ったわ。

日本人として、尺八をそんな使い方するな!ってロシア人に言ってやりたいわ。けど、映像の撮り方にはいろいろと感心した。

2 件のコメント:

  1. タルコフスキーの映画は、もう、美術館で絵画を見ているように鑑賞するしかないんじゃないかと。「ノスタルジア」と「サクリファイス」は亡命後に祀り上げられて撮った感じ。「サクリファイス」ではチェルノブイリも頭の中にあったと思う。「鏡」と似たシーンがあります。

    タルコフスキーには懲りたご様子なので・・・映像美だけじゃなく、コンパクトで胸に迫るドラマを内包したスペインの巨匠ビクトル・エリセをお勧めします。巨匠ですが、長編3本しか撮っていません。溝口健二の影響を受けた美しくも静かな映像と、共感できる父娘の愛のドラマです。世界一美人で可愛い(と思う)幼女アナの幻想的な日常「ミツバチのささやき」。どこかYUI的な少女が、逝った父との想い出を辿る「エル・スール」。スペイン内戦を背景に淡々と語られるスペイン北部の寒村は、「リトルフォレスト」のような映画が理解できる人には、より感動が深いと思います。

    でもこれらはレンタルは難しいかな。
    最近ではTSUTAYAの準新作。アゴタ クリストフの自伝的小説を映画化したハンガリー映画「悪童日記」が、とんでもなくすごいです。洋画も観ましょう。

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  2. あ、ノスタルジアは見ようかと思ってました。懲りても見るのが自分。
    「ミツバチのささやき」は昔みたことあります。あの少女は後にすごい美人女優になったって聞いたことある。もう一度見よう。「エル・スール」も見る!

    でも、B級C級でしょうもない邦画を見るのも自分の使命だと思ってる…。

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