2014年3月7日金曜日

松本清張 「黒い福音」(1960)

1月にテレビ朝日で松本清張ドラマがあったので見てみた。自分は「3億円事件」にちょっと関心があるので。
このドラマは「水の肌」に収録された短編。アメリカの保険会社目線の事件報告。以前読んだはずなのにぜんぜん憶えていなかった。田村正和がすごく体調悪そうで心配。

どちらかというと「黒い福音」はついでに見た感じ。自分は「昭和の未解決事件」と「松本清張」に日々関心を持っていたけど、昭和34年の国際線スチュワーデス殺人事件はノーマークだった。まったく知らなかった。

この事件は当時の新聞や週刊誌で大々的に取り上げられていたらしくて、ある年代以上の人はみんな知ってる事件だったらしい。もうひとつの「日本の黒い霧」。

さっそくこの事件を調べてみたら、ドラマ中に出てくる「バジリオ会」とか「トルベック神父」とかはすべて仮名だったのだが、ネットには実名や顔写真もあってびっくり。そして、松本清張の原作も手に入れて読み出した。

ドラマではいきなり死体発見から始まるが、清張は教会内部の闇、犯人と被害者、若くてハンサムな神父と信者、逢瀬を重ねる若い二人から書き始めている。
いきなり事件の真実を、清張の空想で小説として提示。ここ、本の5分の3におよぶ。長くてちょっと退屈した。

後半になってようやく捜査開始。だが、ドラマとは登場人物の設定がかなり違っていた。ビートたけし演じるベテラン刑事藤沢六郎は原作では42歳、どちらかというとボンクラ。瑛太が演じた市村という新人刑事はほとんど登場しない脇役。畑道を歩き回って真実にたどりついていくのは新聞記者の佐野。たけしの役は佐野と藤沢の二人を合わせて創造したキャラ。

竹内結子が演じた聖書翻訳を翻訳する江原ヤス子は原作だと品のない小太り中年女性。竹内とまるで印象が違う。この役も被害者を監禁した女性と混ぜ合わせて作り出されたキャラ。ヤクザに撃たれるシーンなんか存在しない。たけしの「アンタの神様は今消えたよ」って台詞も存在しない。

被害者のスチュワーデス生田世津子は若手女優の木村文乃。清楚で幸薄い感じでぴったり。かつての自分なら♥タイプ♥だったかもしれない。だが、被害者の顔写真を見る限りぜんぜん似ていない。

読んでいて、これは清張としては退屈な作品かも…と思っていたら、後半は面白かった。

清張はこの事件の犯人とその黒幕を完全に断定。今までなんとなく名前は聞いていたあの教会と信者が完全にカルトに思えてきた。信者の一人が殺されているのに、何故積極的に捜査に協力しない?清張は怒っている。

国外に脱出した神父がその後どうなったとか、捜査に圧力をかけたのは誰か?とか、誰か詳しく調べてくれないかな。当時の日本の国力ではどうにもならない無力感があったらしいが、今なら調査できると思うのだが。

宗教団体の犯罪を捜査することの難しさはこの事件の教訓をもってしても解決していない。当時の警察は今以上に、人権無視の特高警察の遺伝子が残ったひどい強引な捜査をしたはずなのに逮捕できなかった。後のオウム事件も早くからなんとか出来なかったのか。

外国人の犯罪も国外に逃げられては何ともしようがない。某国のスターに熱狂していく女性たちを見ても、この国はこの本の時代から大して変わっていないように感じる。

2 件のコメント:

  1. 川崎鶴見U2014年3月8日 0:12

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    ��月のテレビ見ました。
    たけしの藤沢六郎がてっきり平塚八兵衛だと思っていたので、終盤の展開は意外でした。なかなか重くて前半の藤沢の無茶苦茶がなければもっと良かったかもしれない。
    清張の本は読んでいないので、ドラマと比較は出来ないけど・・・
    「あんたの神様は今消えたよ」。
    ペテロの否認。ユダの裏切り。イエスは最初から今に至るまで、裏切られ殺され続けている。
    使徒ペテロの墓の上に作られたのがバチカン。まあ、世界最大のカルトでしょうか。
    ��千年の長きに渡り、どれほどの人間が「神の名」において殺されてきたのでしょう。
    イエスもびっくり!

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    カトリック総本山の絢爛豪華さは他にない。美術館の収集品がすごい。
    ドラマ版も面白かった。まだ読んでない作品をどんどんドラマ化してほしい。

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