2013年6月4日火曜日

国木田独歩「武蔵野」を読む

この本がたまたま目の前にあったのでパラパラとめくって読み始めた。この明治の作家の名前もこの本のタイトルも知ってはいたが、それ以外まったく知識がないままにページをめくる。国木田独歩の「武蔵野」新潮文庫版。


松たか子主演、岩井俊二監督のちょっと古い映画に「四月物語」という作品がある。1999年公開。松たか子演じるヒロインがあこがれの先輩を追って東京の大学へ進学。かつて武蔵野とよばれた場所で新生活を始める……という内容だったと記憶している。
そのヒロインは武蔵野に関するイメージを国木田独歩の同名短編小説集から得ていたことが印象的。

この本は明治34年刊行、国木田が初めて書いた17編からなる短編小説集。美文をちりばめた古めかしい文語体でかなりとっつきにくい。
表題作はどちらかというとエッセイのようなものだ。武蔵野の自然への賛歌。これを読めば武蔵野はどれほどすばらしい場所なんだろう、って思うに違いない。

国木田は江戸文政年間の地図から「武蔵野のおもかげは今わずかに入間郡に残れり」と引用しているが、渋谷から西は楢の林と田園風景だった時代。自分はまさに現代の武蔵野ハイカーなのでとても興味深く読んだ。

友人と三崎町の停車場から鉄道で盛夏に「境」へ遊んだ、とある。これ、武蔵境のこと?現武蔵野市から三鷹にかけては今でも畑が多いけど、この時代は小川が流れる田園。茶屋の老婆に桜も咲いてないのに東京から何しに来た?と訊ねられる。
どうやらこの時代、このエリアは東京とは考えられてなかったらしい。花も咲いてないのに林を歩いたりする男ふたりはこの時代からめずらしかった……。武蔵野の面影を残す場所はもうほとんどなくて杉林ばっか。でも、多摩や秩父の里を歩くのは楽しいんだよ。

モーパッサンの短編の翻訳1編を除く15編、どれも読んでみて「え?!」って戸惑った。「終わり?」って思った作品が多い。
詩情あふれる美文で、俳句や詩集を読んでいる感覚に近い。現在の短編小説とはかけ離れているなって思った。ちょっと他人には勧められないものが多い。ストーリーがない一場面のみ。「郊外」「わかれ」「置土産」「おとづれ」はそんな感じ。

「源叔父」「河霧」は暗い気分になるだけなので読まなきゃよかった。40代で初老、50代で老人扱いって悲哀を感じる。生きることは明治も今も大変だ。

嵐の夜の溝口宿を舞台にした「忘れえぬ人々」は、読みやすくてわかりやすい味わいのある短編。この作品と「鹿狩」ぐらいかな、暇つぶしに読んでみてもいいのは。

4 件のコメント:

  1. 川崎鶴見(有)2013年6月4日 18:55

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    独歩「武蔵野」は冒頭から美文だなと思う。でも渋すぎ。
    「月を蹈んで散歩す 青煙地を這い月光林に砕く」
    この人は普段からこんな風な日記を書いていたんですかね。
    ��etの「青空文庫」を愛用していたので、ときどき独歩の短編もPCで読みました。
    東京電話交換局の交換手を勤める二人の乙女の友情を描いた明治浪漫な「二少女」。
    短いけど切なくて好きです。
    あと、恋人との新天地を夢みて挫折した独歩の北海道旅行記「空知川の岸辺」も良かった。

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    川越には古くからの街並み、秩父には自然と荒川の上流ならではの自然とSL…。地元に風情があるのはいいですね、愛着が湧きます。
    私の地元、川口には…吉永小百合さんが出ていた「キューポラのある町」のロケ地(現在はその面影もなく、その映画の存在もあまり知られていないかも)でも結局、川口には何もないです…。
    サッポロビールの工場は住宅地とアリオに、鉄道建設の保守用車基地は団地に変わってしまいました。
    少なくとも、歴史と名所があれば…。

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    ま、今読むべき本かどうかわからないけど、いつ読むか、いまでしょというわけで読み通した。魅力的だったのは武蔵野だけだったかな。青空文庫まだ利用したことない。
    川口は赤羽の川を挟んだ隣町。キューポラってまだみたことない。

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    未だに謎です、鋳物工場には行ったことがあるのですが…。当時、小3の頃の私にとっては臭くて暑いなぁ〜としか感じませんでした(笑)

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