松本清張が精緻な調査と切り口で、自分がまったく疎かった大正から昭和、暗黒のファシストの時代について教えてくれた。この本読んでやっぱ戦前は「真っ暗」だなって思った。二・二六事件について語り始める第5巻以降に入る前に、第4巻までの内容と感想をまとめたい。
清張は二・二六事件について書くために、田中義一内閣誕生前夜から語り始める。
第1巻
- 陸軍機密費問題 政治の世界に転進した田中義一の政治資金の出所のスキャンダルについて
- 石田検事の怪死 その事件を追った検事が死体で発見された事件。後の下山事件のモデルになったんじゃないかと清張は語る。
- 朴烈大逆事件 冤罪事件に連座した金子文子の身の上のあまりの悲惨さに絶句。
- 芥川龍之介の死 芥川は王子から飛鳥山をはさんで反対の田端村に住んでいたので親近感があった文豪だが、清張は執拗に芥川の「下半身事情」に迫っている。残された記録を洗いざらい調べ上げて、「もうヤメテ!」ってぐらいに暴露。辛辣で容赦ない。芥川のカッコよかったイメージが台無し。大正時代の文壇はみんなこうだったらしい。
- 北原二等卒の直訴 そんなことが!?という事件。軍隊内部の部落差別問題を告発。清張は入隊した経験があるそうだが、そうとうシゴかれるらしい。軍隊に入らなくていい時代に生まれてよかったと思う。
- 三・一五共産党検挙 思想が取締りの対象だった時代、共産党が非合法だった時代、ばったばったと党員は逮捕されていった……。
- 「満州某重大事件」 陸軍がどうにもならなくなっていく時代。田中総理は昭和天皇に上奏した後に総辞職を決意。「ちょっと言いすぎたかな」と昭和天皇は以後、発言に慎重になってゆく。
- 佐分利公使の怪死 次世代ホープ外交官の支那公使が箱根のホテルで死体で発見された。自殺か他殺か?!どちらも決め手に欠く。
- 潤一郎と春夫 当時の新聞紙面を賑わせた谷崎潤一郎と佐藤春夫の「妻譲渡スキャンダル」を清張は「なぜそんなに?」というぐらい熱心に執拗に追いかける。かなりの大作。
- 天理研究会事件 思想が取り締まられた時代、宗教も同じだった。教科書に載ってないことを清張から教わった。
- 「桜会」の野望 ここに書いてあることが東京裁判に証拠として提出されていたら、清張の言うように橋本欣五郎も命がなかっただろう。
- 五・一五事件 首謀者たちの刑の軽さに驚く。ファシストの時代がやって来た。
- スパイ〝M〟の謀略 共産党非合法時代に暗躍した当局の謎のスパイの実像に迫った大作。20代前半の党員たちが命がけの活動に人生を捧げてしまった。
- 小林多喜二の死 びっくり!小林多喜二は銀行の仕事をしてるフリしながら原稿を書いていた!「酌婦」の少女への恋文がまるでA〇Bへのファンレター!(笑)「僕が〇〇ちゃんを救うんだ!」って、若いな‥。最期は特高警察にボッコボコにされて惨殺。享年30歳。帝大(東大)、慶大、慈恵医大は警察の圧力で司法解剖を拒んだ。手を下した特高の刑事たちは戦後も誰一人罪に問われることなく出世したりしてるって今回調べてみて初めて知った。警察の暴力の遺伝子は戦後も多くの冤罪事件を作り続ける‥。
- 京都大学の墓碑銘 京大VS.文部省 学問の世界にも政治が介入し始める!
- 天皇機関説 以前から自分にはまったくよくわからなかった歴史のヒトコマ。いま読んでもその憲法学はわからないが、右翼と軍部、法学者の議論のかみ合ってなさがひどい。清張は皮肉を込めて両者を比較提示している。清張によると、「この問題を契機にファッショ勢力は全面的な攻勢に移り、日本は急速に戦争へと傾斜してゆく」という。
- 陸軍士官学校事件 陸軍というエリート組織の人事が複雑すぎて、登場人物が多すぎて、一読しただけでは話が飲み込めない(>_<) 相沢事件への前哨戦。
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