2012年5月30日水曜日

金田一耕助

シンガーソングライターの安藤裕子は横溝正史が大好き。自分も中学生ぐらいのとき推理小説ばっかり読んでいて、中でも金田一耕助シリーズが大好き。

ただ、その反動でその後まったく推理小説を読まなくなったし、その手のドラマとか一切見なくなった。金田一少年とか言語道断くだらない。唯一の例外が市川崑監督の石坂浩二金田一シリーズだ。これは時々見たくなる。

何がすごいかって、市川崑のほうが原作を上回ってしまっている。高校生ぐらいのときからそのことに気がついた。どうも原作を読んでも納得できないことも映画のほうがきちんと整理して、人間の行動として納得できることが多い。

金田一シリーズが何度見てもぜんぜん理解できなかった。凄惨な連続猟奇殺人が本当に恐かった。他の探偵や刑事がトリックやアリバイを暴くことに才能を発揮するのに対して、金田一耕助はただ方々に話を聞きに行くことで判明した事件の背景を提示する。これはショックだった。そんな探偵ってあり?理解するのに時間がかかった。

そして、人間的な魅力において他の探偵たちを凌駕している。他の探偵たちはどこか「俺、頭いいだろ」的な態度が見えるが、石坂金田一は人懐っこさと照れとはにかみがあって人間くさい。世界のどの国にも民族衣装姿の探偵なんていないのではないか。

そんな石坂金田一シリーズの中でも、最もよくわからない話だったのが「女王蜂」(1978 東宝)だ。今回、18ぐらいのとき以来の鑑賞。自分は人の話をよく聞かないので、ぜんぜん意味がわからなかったのだが、今回ようやく話がわかった。はっきり言おう。名作だ。

市川崑は同じようなキャストでこのシリーズを作り続けた。こんなこともめずらしいと思う。また岸恵子?って思ったけど、40代後半の女優としての円熟期のすばらしい存在感だ。あと、毎回ワンパターンに登場するワンポイント脇役たち、三木のり平、坂口良子、草笛光子、大滝秀治、加藤武‥‥、どの俳優もすばらしい。適材適所ワンパターンでそこにいてくれるって、安心感がすごい。今回、特に印象深い怪キャラ九十九龍馬を演じた神山繁の髪フッサフサのロンゲ姿にびっくり。
そして後日、シリーズ第5作病院坂の首縊りの家」も見た。これを見るのは子供のとき以来だが、これが一番わけのわからない作品だと思っていた。大人になってから見たらわかるかもと思ったけど、やはりどうも納得行かないことが多い。

過去4作をはオープニングの配役の示し方も違っていて違和感。自分には人間ドラマがいきいきとは理解できない。悲しい兄妹の取る行動が納得いかないし、展開もちょっと疑問。シリーズ全5作で5番目という自分の評価は今回も変えられなかった。それにしても、明治大正期の肉食男の強欲さってはんぱない。

キャストは当時のアイドル桜田淳子の演技がキレッキレで強いインパクト。白塗りの目がとろ~んとした花嫁姿が綺麗だ。そして若い草刈正雄がスーパーハンサム!自分は日本の映画史上この人がダントツ1番のハンサムだと思う。軽~いとぼけた若者を演じている。ちなみに草刈正雄の娘はセブンティーン誌のモデルをしている。映画とはまったく関係ないが。

PS. 最近になってセルフリメーク版「犬神家の一族」を見たけど‥‥失望した。まあ、そうなるだろうと予想していたから今まで放置していたのだが。細かいところだけど、深田恭子の眉毛が昭和22年じゃない!どうみても現代人が紛れ込んでいる。佐智が珠世を迎えにいくボートが一目で「こんなボートは昭和22年には存在しない!」と叫びそうになったわ。

オリジナル金田一の生首菊人形も滑稽だったが、現代の技術をもってしても今回のはさらに滑稽になってしまった。脚本もカット割もほとんど同じ箇所が多くて、そこにこだわってるように感じてたら、金田一が那須を去る場面は大胆に変わっていた。加藤武の登場はそれはそれで嬉しいけど、80近くになって警部として捜査の最前線にいるってありえない!

そして、石坂浩二だが‥、青年金田一が一気に初老になっている寂しさを感じた。市川崑は晩年にどうしてこんなものを作ってしまったんだろうか。でもまあ、今の若者たちにこんな名作があったという事に気づかせてくれたことは大きい。

市川崑は日本家屋を徹底的にきったな~く暗ぁ~く撮った点で偉大だ。日本人は高度経済成長までかまどで料理をつくっていた。家は暗く煤けて汚かった。そういうリアリティにノスタルジーを感じるのだが、CGでレトロ感だけ作りこんだりする映画が多いのはいただけない。誰かこのシリーズを本気で作ってくれる人がいてほしい。

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