2012年2月2日木曜日

「ゼロの焦点」(2009)

実は自分は松本清張「ゼロの焦点」を、中学生のときと大人になってからの2回読んだことがある。松本清張らしい社会派推理小説。たまたま、家にあったから読んだ。中学生には難しい。
推理小説というものを読んでみたくて無理して読んだのだが、それほど面白いものでもなく、納得できない内容だった。大人になって、「こんどは理解できるだろう」と読んでみたが、今度は松本清張の精緻な文体に心躍るものがあったが、やはり内容にどこか薄いものを感じていた。

今回初めて映像を見てみた。広末涼子、中谷美紀、木村多江の主演による豪華なリメーク。

あれ?こんな原作だったっけ?明らかに脚本が内容を上塗りして、蛇足を付け足し、無理に引き伸ばして、ただでさえ印象の薄いヒロインをさらに印象薄くしている。

情が過多。自分が松本清張を好きなのは、文体がさらっとしているところ。この映画はだいたいの事実が判明してからが長い。ぜんぜん原作のストーリーを覚えていなかったのだが、清張はこんなことは書いてないはず!という場面が多かった。

ただ、映像がすばらしい。あの時代の雰囲気をとてもよく伝える。かつて、自分は横溝正史とかも好きで原作読んだり、映画観たりしてたけど、近年のCG技術の向上と、昭和20年台の風景は中国、韓国で撮るという発想の転換によって、すばらしい画が撮れるようになっていて、画面上はあの時代をリアルにしている。すごく頑張ってる。

中谷美紀の印象が強い。すごい女優だ。広末涼子は見せ場がない。真実に近づいていくサスペンスのヒロインらしくない。ずっと泣きそうな顔してる。

木村多江にはこの役が合っていたかどうかわからない。幸薄い感じはあってるけど、男に利用されるだけの頭の悪い不幸な女のイメージに合っていたかどうか。

西島秀俊はず~っと前からヤサ男のスペシャリスト。何を観てもこの俳優を見かける。いつまでもかっこいい。音楽担当が上野耕路でびっくり!この人、ゲルニカだった人だよね。

リメークにあたって、製作側は野村芳太郎による傑作が念頭にあったものと推測される。いや、あったはずだ。清張の書いたとおりに淡々と描くのでは映画にする意味がない。リメークの意味もない。

とにかく冬の日本海が暗い。力を入れて頑張って、暗くして、結果、残念。
あの時代は暗いってことは、ことさら強調しないでも今の若者でも分かると思う。みんなそれぞれ絶望の中からなんとか希望を見出し生きていた。時代に翻弄される宿命。今の若者もなにも希望がないけれど、この時代よりはマシ。

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