吉村昭「海の祭礼」を読む。昭和59年8月から61年6月まで文芸春秋に連載されたもの。自分が読んだものは1989年文春文庫初版。吉村昭は人気でBOでは110円棚ではあまり見かけないのだが、自分はこの夏に110円で発見確保。
カナダでスコットランド人の父とネイティブアメリカン母の間に生まれた混血児ラナルド・マクドナルドくん24歳は差別に嫌気がさして神秘の国日本へ渡ることを夢見る。船長が引き留めるのに言うことを聞かず、捕鯨船を自らの意思で降り、給料の替りににもらった手漕ぎボートで無人島だった焼尻島に嘉永元年7月に上陸。そして利尻島へ上陸。
自分、学生時代に大学の友人と北海道旅行に出かけ、天売島、焼尻島、利尻島、礼文島を旅したことがある。利尻島でラナルド・マクドナルド上陸の記念碑があったような記憶があるのだが、当時はその人物をまったく知らず、気にも留めてなかったw 今回、吉村昭せんせいの著作で学ぶ。
地元民とギリギリのコミュニケーションの末に、不法密入国者マクドナルドくんは役人によって長崎へ移送。
ここから先は数年前に吉村昭「黒船」(1991)で読んだもののSide-Bという感じ。日本における英語学習事始めといった様子。
てか、こちらの「海の祭礼」のほうが古いので、「黒船」のほうがSide-B。「黒船」にも登場した日本史における最初の英語通詞・森山栄之助(1820-1871)の生涯を扱った本。
文化文政の昔から日本周辺海域に西洋人の船が出没。漂流民が上陸したり、水食糧を求めて上陸して乱暴狼藉する輩が現れる。それは当時の日本人からすると恐怖。
で、英語を知る必要を感じていた森山(オランダ語通詞エリート家系)は、日本語を覚えようとがんばるマクドナルドくんに何か特別なものを感じ、マクドナルドくんと1対1で英語を学ぶ。それ以前にあった書物の発音ではまったく通じないことを知る。
この二人のやりとりがギリギリ。それはもう異星人とのファーストコンタクトのようなもの。
しかし、語学の天才遺伝子を引き継ぐ栄之助は手探りで英語を学びつつ、日本国の数少ない英語をちょっとは理解できる役人として方々に呼び出されて行く。漂流民との厄介ごとの現場でギリギリ英語でコミュニケーションという活躍。
真面目で従順で慎ましかったマクドナルドくんと違って、アメリカ東海岸からやってきた船乗りたちはほとんどもれなく日本人を舐めてる。役人の指示に従わないし反抗的。仲間同士で口論や喧嘩。同僚のハワイ人船員も絞殺しておいて自殺したとわめく。それで本国に帰還すると日本の対応が酷いとネガティブ情報を拡散。呆れる。迷惑外人は昔も今も変わらない。
その迷惑外人のラスボスがペリー艦隊w いやもう武力で要求を飲ませようとする輩と交渉とか、役人はつらいよ。
そんなペリーやハリスやオールコックらと丁々発止の条約交渉の現場を経て、栄之助は通詞としては異例の出世。という嘉永年間の物語。
その後はいつもの吉村昭らしく、駆け足で幕末史をおさらい。時代は栄之助の弟子たち、津田仙(津田梅子の父)や福地源一郎、沼間守一、そして福沢諭吉らの英語名人たちが活躍。
明治政府から仕官するように誘われるのだが、緊張を強いられる現場で過ごしたせいなのか?50を過ぎると急速に老け込みほぼ認知症。何もせずぼーっとしてる。それは家族も弟子たちもショックでかい。
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