2025年2月14日金曜日

西村京太郎「赤と白のメロディ」(2011)

西村京太郎「赤と白のメロディ」を読む。2011年1月に実業之日本社ジョイ・ノベルスより刊行後、2013年に文庫化。
これもべつに何も読みたかったわけでなく、無償で頂いたものなので読んだ。

刑事部長から直々に特命で法務大臣の娘(芸大卒イラストレーター)が行方不明になっているので極秘に捜査を要請された十津川警部。いつものように相棒の亀井と一緒にアパートへ行くと「君は飯島町を知っているか?」という謎のメッセージ。二人で長野県飯島町へと向かう。

方々で聞き込みをするのだが町が何かを隠してる。そうこうしてるうちに、東京・中野駅前の路上で倒れているところを救急搬送。医者は典型的な交通事故による傷と断定するのだが、本人は自分で転んだだけと否定…。

この本、1ページあたりの活字数の少なさにも驚いたのだが、内容がまるで薄くてびっくり。警視庁捜査一課の警部が動く必要性がまるでないし、事件性もまるでない。今まで西村京太郎を何冊か読んできたけど、誰も死なないどころか何も事件が起こってない本は初めて。

政治評論家西村京太郎氏による、十津川警部の口を借りた政局解説話。
闇献金疑惑がありながら憲法改正を急ぐ総理と、急に注目を浴びてしまった法務大臣…という、ひそひそ会話中心に進むドラマ。飯島町は中央アルプスと南アルプスの見えるいい処という以外、何も関係ない。

表紙にトラベルミステリーと書かれているのだが、この本はミステリー要素はまったくない。戦後政治をずっと見てきた西村京太郎による政治風刺劇。
架空の贈収賄事件と政局を、何度も同じ意味の発言をダラダラ繰り返すだけのドラマ。よくこのクオリティで編集からOKが出たものだと思った。
戦後の二十数人の検事総長のなかで、名前が残っているといわれる総長は、二人である。
一人目は、1950年に、検事総長になった佐藤藤佐である。54年に、造船疑獄が起きた。贈収賄事件である。
佐藤検事総長は、この事件に関わったとして、当時の与党自由党の佐藤栄作幹事長の逮捕を決意し、指示を出した。
二人目は、布施健検事総長である。フセケンの愛称で、呼ばれたこの総長は、79年のロッキード事件で、田中角栄前首相を逮捕したことで有名になった。
自分は昨年、戦後3人目の歴史に名を残した検事総長が生まれたと思っている。裏金議員全員の不起訴を決めた畝本直美だ。おそらく、西村氏が生きていればかなり怒っただろうと思われる。

「赤と白のメロディ」というタイトルは何もこの作品の内容を表していない。あと、改憲論者は大川周明「昭和維新の歌」を歌うらしい。
権門上に傲れども 国を憂うる誠なし
財閥富を誇れども 民を念うの情けなし
令和の今現在もまさにこれ。

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