中公新書2760「諜報国家ロシア ソ連KGBからプーチンのFSB体制まで」保坂三四郎(2023)を読む。著者はロシア・インテリジェンス活動と戦略の専門家らしい。
もうひたすら恐ろしいことが書かれてる。G8時代は普通の先進国で世界の一員かと誤解していたロシアは、実は腐敗しきったならず者マフィア国家だった。こんな国を「いつかまともな国になってくれるはず」と期待しても無駄だと悟る一冊。
日本も戦前は朝憲紊乱罪とか治安維持法とか特高警察とかあって、国体護持の邪魔になる社会主義者・共産主義者・無政府主義者とその手先たちも弾圧され場合によっては殺されたりしたのだが、ソ連・ロシアはスケールが違う。
体制にとって邪魔で不要な者は粛清される。まとめて殺される。疑われただけで殺される。疑われた者と親しかった者も殺される。
そんな恐ろしいロシアの始まりはレーニン。こいつを労働者の味方と思ってる人は甘い。反革命分子とサボタージュを取り締まる秘密警察Chekaをつくり諜報国家の礎となったジェルジンスキーはずっと崇拝の対象?!チェーカーたちは英雄?
そして決定的な悪魔はスターリン。NKVDが殺した人数は空前絶後。ロシアのエリートも軍人も民衆もみんな不幸。つくづくソ連・ロシアに生れなくてよかったと思う。
ソ連の隅々まで監視社会と密告社会。そうなってしまったことに誰も疑問も異議も持たないのか?もう誰もクレムリンの王に逆らえない。
早くからプーチンの危険性を指摘したり反体制活動をしたりしたジャーナリストや活動家は外国に逃げても不審死という暗殺。怖い。
ソ連は崩壊する時にKGBを改革したり分割したりできなかった。ブッシュとゴルバチョフのマルタでの冷戦終結以後、むしろKGBはさらに活動を活発化。
現在のロシア連邦保安庁FSBはKGBと呼んでかまわない。
プーチンは東ドイツのシュタージたちがたどった末路をよく知っている。なので諜報員の英雄たちを護る。祖国のために尽くした諜報員エージェントたちは英雄という扱い。
KGBのハンドラーたちは外国人(支配層、有望な若者)をエージェントとしてリクルートしてる。ここ読んで鈴木〇男を連想。たぶんハニートラップにかかり、家族を人質にとられてる哀しい操り人形。X上の親ロシアアカウントもエージェント。
ロシアのニュースメディアはすべてクレムリンが支配。もうロシア人の言う事はすべて嘘。まったく信じなくていい。
てか、サイバー空間上の「ナチ」「差別主義者」はロシア人が敵対者に張り付けるレッテルにすぎない。ユーロマイダン革命もそう。大統領選挙の民主党ヒラリー・クリントンのときもロシアの政治技術屋による世論工作。
ロシアではインターネットも動画サイトも、ロシアを破壊するためにつくられた兵器という認識。
「アラブの春」に危機感を持ったロシア。SNSを利用して逆にフェイク情報を拡散し西側を分断するのに躍起。日々新しいテクニックを学んで開発。
第3章「戦術と手法 変わらない伝統」、第4章「メディアと政治技術」は衝撃。ロシアから誕生した政治技術者による世論工作とプロパガンダ戦のテクニックのすべて。
全日本人が読むべき。ツイ民X民はみんな読むべき。てか、全世界の教科書に載せるべき。
米国がソ連の人権問題を批判するとき、ソ連側代表が用いた典型的切り替えしが「What abaut…?」
冷戦時代、ソ連は議論を脱線させ、「そっちだって問題があるではないか」というフレーズで西側の偽善を指摘した。西側の外交官や記者はこのソ連のプロパガンダ技法を「ワタバウティズム whatabautism」と呼んだ。重要な事実から相手の注意を逸らそうとする「燻製ニシンの虚偽」という論理的誤謬である。
これ、今も中国・韓国が日本にしかけてくる論法。論点をずらそうとする相手はスパッと遮るように小学校から子どもたちには教育したい。「今その話は関係ない」「それはそれ、これはこれ!」とピシャっとはねつける勇気を持とう。
2014年以降、「ロシア嫌悪症」はロシア政府の公式ナラティブとなった。
そしてロシア人は欧米と西側諸国が「ロシア嫌悪症」を持ってると思い込んでる。ロシア人は被害者。だから我々もあらゆる手段で全力で反撃するという正当化。
ソ連は、第二次大戦を「大祖国戦争」と呼び、自らをナチスドイツに勝利した欧州の解放者として定義した。しかし、東欧・バルト諸国にとって、ソ連はナチスと共謀した侵略者である。ソ連崩壊後のロシアは、第二次大戦敗戦国のドイツや日本とは異なり、歴史の事実から目を背け続けた。
ロシアは今も敵認定した国をファシストと呼ぶ。なのでウクライナはナチスでなければならない。ありもしないファシストの脅威を煽る。
ロシア正教会の正体は宗教の振りをしたKGBだった。
そして、2014年冬季五輪開催地ソチは「KGBとFSBの諜報インフラとエージェント網を構築した要塞」だった?!観戦に訪れた外国人はすべて監視対象でデータを抜かれてる。違法行為は録画されている。マジか。
政治・ビジネス上のライバルの評判を落とすために醜聞を利用することを「コンプロマット」と言う。KGBはこのコンプロマット情報収集に余念がない。
コンプロマットは金銭不祥事や汚職等の違法行為に関するものが多いが、道徳的なダメージを狙うときにはセックスの情報が使われる。
そういえば昔、ロシアの検事総長が娼婦とベッドで戯れる映像が国営放送で流され解任されたことがあった。プーチンの敵はすべていきなり罪を突きつけられて追い落とされる。
2014年7月17日にドネツク州上空でマレーシア航空機が撃墜され乗員乗客298名全員が死亡した事故があるのだが、事件発生後のロシアの対応というと
- 即座に否定
- 他国・敵対国が関与したと思わせる「証拠」の収集と捏造の開始
- ウクライナ軍が関与した背景を説明する「仮説」を拡散
- 国際社会の検証結果に反論できない場合は、それがロシアに対する「情報攻撃」であると反論
- 「常識」を働かせ「攻撃的」論調やレトリックをやめるように呼びかけ、あたかもロシアが「冷静沈着」であるかのような位置取りをする
5番目を読むに至って笑ってしまった。(笑い事じゃない)
これって、コロナウィルス武漢発生説のときの中国の対応と同じ。
もうロシアは何から何までもデタラメで嘘つきw すべてはロシアの正義のプロパガンダ。もうどうしようもない。
2016年に「ポスト真実」という流行語があったと初めて知ったw 「世論形成の上で、客観的な事実よりも、感情や個人の信念への訴えが影響力を持つ状況」を指す。
「真実はそれを語る者の数だけ無数にある、オルタナティブな解釈が無数にある」はポストモダン的態度を取る左翼知識層や、対立する双方の主張を「平等に」聞くジャーナリズムから違和感なく受け入れられる。嘘で塗り固められたソ連プロパガンダと西側報道の間の中庸は、十分に「嘘」なのである。
この本はいつも手許に置いておきたい。ツイ(X)ッターに一日中張り付いているような人は全員この本を読むべき。
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