中公新書1935「物語 メキシコの歴史 太陽の国の英傑たち」大垣貴志郎(2008)を読む。
日本とメキシコの外交関係は長い。だが、日本人はほとんどメキシコ史を知らない。メキシコ人といっても誰も思い浮かべることができない。
たぶん世界史ではマヤ・アステカ、日本史では支倉常長ぐらいしか連想できない。
政治と社会ではあまりいい印象がない。麻薬と社会の腐敗とアメリカへの不法移民といったネガティブなニュースが多いイメージ。
そして2019年に日本は総人口でメキシコに抜かれ、メキシコ10位、日本11位となったことも印象的。
そんなメキシコを知るためにこの本を手に取った。
16世紀スペインによるアステカ・マヤの征服。その後の植民地経営は高校世界史で扱われる。
この本では1810年、イダルゴ神父やモレーロスらによるスペイン王国からの独立闘争からが本番。ここらへんはあまり日本人には知られていない。アメリカ独立とフランス革命以後の世界。ナポレオンの侵攻により国王不在となったスペインから、植民地がつぎつぎと独立。
メスティソと呼ばれる人々はメキシコ独立を希望。クリオージョは保守層と、独立を目指す層に分裂。
イダルゴは君主国メキシコを、モローレスは共和国メキシコを目指して夢破れる。
ラテンアメリカの守護神「グアダルーペの聖母」を掲げた民衆のスペイン人への戦い。かなり残虐な結末。
だが、1821年に駐留スペイン王党軍将校アグスティン・デ・イトゥルビデらがクーデターによってアッサリとメキシコの独立を実現。
鉱業(銀生産)・農業牧畜によって人口増と発展のヌエバ・エスパーニャ副王領を見たドイツ人旅行者で博物学者のアレクサンダー・フォン・フンボルトは「世界でも富裕な地域のひとつ」、メキシコシティを「パリやベルリン、サンクトペテルブルクの都市にも見劣りしない高級街」と記す。
カトリックに敬愛を示す白、メキシコ独立を象徴する緑、スペインの真紅の三色旗に、アステカ人のメヒコ・テノチティトラン帝国のシンボル「ヘビを咥えサボテンにとまる鷲」の紋章を加えたメキシコ国旗がつくられる。
スペインから適当な王位継承者を迎えられなかったメキシコは、イトゥルビデがアグスティン1世となりメキシコ帝国皇帝となる。だが、この皇帝はたちまち転落。処刑という憐れな末路。シモン・ボリーバルも嘆息。
以後、メキシコは混乱。多くの領土をアメリカに割譲していく歴史。共和国大統領を11期務め、失脚しては返り咲くサンタ・アナ政権が続く。
1836年のテキサス共和国独立、1846年の米墨戦争と48年グアダルーペ・イダルゴ条約により、メキシコは国土の半分を失っていく。失った領土の広大さがえぐい。このときの恨みからメキシコ人は今も嫌米感情を抱いてる。
オアハカ州のベニート・フアレスによる自由主義の時代。サンタ・アナを追放。1857年憲法制定、レフォルマ戦争の内戦へ。
対外債務支払い停止がフランスの介入を招く。首都はフランス軍に占領。メキシコの保守派はオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフの弟マクシミリアン大公をメキシコ皇帝として迎える。(マクシミリアンは命知らずすぎ)
メキシコの財政では王室と貴族を養うことはできない。フランスのナポレオン三世もメキシコでの軍事費を支払う余裕がない。皇帝の妻カルロッタはヨーロッパへ脱出。そしてフアレス軍が首都へ。そしてマクシミリアン皇帝の最期。フアレスの冷酷。
そして1876年から軍人独裁者ポルフィリオ・ディアス長期政権の時代。鉄道が開通し、対外債務を完済し、教会と和解。メキシコは安定とさらなる経済発展。投資を呼び込み米国をしのぐほどの繁栄。1888年には日墨通称修好条約を調印。
独裁が長く続くと今度は労働運動と農地改革のメキシコ革命。マデロ大統領の銃殺、カランサ大統領の暗殺。血塗られた歴史。
メキシコってこのとき国家と教会の宗教戦争のようになって、1992年までローマ教皇庁と断交してたって驚き。
1940-70年には年6%の経済成長。1968年にはオリンピックを、1970年にはサッカーW杯を開催。
70年代にはインフレーション、80年代には原油価格の下落による経済危機。銀行の国有化により莫大な資本流出。冷戦終結後は新自由主義。1993年には北米自由貿易協定。
そんなメキシコ史を駆け足でざざっと読み通す。19世紀から20世紀の初めまでの歴史はぜんぜん知らなかったので有意義だった。
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