2024年1月25日木曜日

池田エライザ「夏、至るころ」(2020)

福岡県田川市を舞台にしたローカルムービー「夏、至るころ」(2020)を見る。
池田エライザの初監督作長編映画ということで見ておくことにした。

これ、キネマ旬報DD映画24区が手掛けてた「ぼくらのレシピ図鑑」というシリーズ企画第2弾企画が持ち上がったとき、以前から映画監督をやってみたいと公言していた池田エライザが自ら手を揚げた。

池田エライザによると、「地域、食、高校生、に密着した青春映画」というテーマだけ与えられていたという。
池田自身が田川の町を歩き、人々と出会い感じたことを書き留め、キャラクターを完成させ、原案を書き、「情報過多で『がんばっても報われない』と感じてる今の若者たちに、大人たちが何を伝えられるか」というテーマを込めて、監督として長編映画として完成させたもの。
制作は三谷一夫Pで脚本は下田悠子。主演は倉悠貴とオーディションで選ばれた新人・石内呂依。

地元の太鼓クラブで幼い頃からずっと一緒に祭りの太鼓をたたいてきた翔(倉悠貴)と泰我(石内呂依)。
高校最後の夏、泰我が突然、受験勉強に専念するからと太鼓をやめると言い出して…。という青春ドラマ。

冒頭から高校生会話がすっごく訛ってる。それは的確に地元方言を濃厚に盛り込んだという感じ。
え、原日出子さんてもうおばあさん役なの?!リリー・フランキーさんもおじいさん役なの?!この家はサザエさん一家と同じ構成?!姉(杉野希妃)夫婦が同居?
かと思ってたら、母が若いのでお姉さんかと思ってたら主人公翔の母親なのか。

やりたいことが何もなく将来が何も見えず、不安と焦りを感じる翔は毎日ぼんやり。
ある日、祖父リリーからの頼みで鳥の爪を切ってもらうために行ったペットショップで、東京から遊びに来てる店主の親戚娘・都(さいとうなり)と出会う。

この女がわりとエキセントリック。こいつが高校生2人の前に突然ぬっと現れる。
働いてない女はギターを売ろうとリサイクルショップへ行くと閉まってる。
商店街のほとんどがシャッター閉まってて人通りもほとんどない。時間が止まってる。
高校へ通ってなかったという女を、翔と泰我は夜の高校へ忍び込んで案内。このギタ女の独白が聴いててつらい。もういろんなことがわかってしまって、歌う気にならない。

翔は無理を言って都に歌ってもらう。なんか、翔はすごく感銘を受けた様子。夏の夜、高校のプール。忘れられない出来事。ああ、青春だなという。

そこに物分かりのイイ高良健吾先生登場。読書のススメ。こういう何事も受け止めてくれる優しいお兄さんのような先生ってどこかにいてほしい。

こういうローカル青春映画って、たいていおじさん監督による退屈なものが多いのだが、そこは池田エライザ。幼少からたくさんの本を読み、たくさんの映画を見て、中学時代以降は評判の美少女として過ごしたサブカル女優ならではのセンスが出ていた。十分に見れる映画になっていた。

静かで間合いをたっぷりとった、いい意味で退屈な、十代の退屈な夏を描いた正しい青春日本映画。
ただ、真面目で硬派すぎる文芸作品のような映画になってしまった。コミカル要素がまったくない。意外かつ笑えるのが都が公園遊具に出現するシーン。
主人公を演じてた俳優がすごく少年時代の山田孝之感がした。とにかく暗い。

キネマ旬報2020年12月下旬号に池田エライザとリリー・フランキーの対談が掲載されている。
リリー「脚本読んだとき意外なものを撮るんだなと驚いたけど、本編を見たらもっとびっくりした。23歳の若い女の子が初めて撮った映画という匂いが微塵もしなかった。何本も映画を撮ってるジジイの作品みたいな質実さを感じた」
池田「私も若いので、もっとアートっぽいことをやりたいとかそういう欲もあった。でも、やる必要がなかった」
池田「夏休みの夜にプールに忍び込むなんて、描写としては王道中の王道じゃないですか。でも、青春時代ってみんな無自覚に全力で王道をやっていたと思う。私自身はそれを少し離れたところから親指の爪をくわえて見ていたタイプでしたけど」
ちなみに、リリーさんは今作が初めての「お祖父ちゃん役」。
劇中でリリーじいさんが飼ってたインコは、池田エライザが実際に自宅で飼ってる「ホクサイ」ちゃん。
劇中の泰我というキャラは仲野太賀から許可を得て借用。

劇中で都が言ってた音楽活動への不満は、池田がリリーに普段言ってる愚痴そのもの。過去の古傷、絶望、嫌な事。都を演じたさいとうなりが「100%共感しエキセントリックに言ってくれた」

主題歌は崎山蒼志の書き下ろし「ただいまと言えば」。池田が崎山のファンで、崎山が高校生だったということもあって、池田がオファー。

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