2024年1月11日木曜日

イザベラ・バード「ロッキー山脈踏破行」(1879)

イザベラ・バード「ロッキー山脈踏破行」(1879)を小野崎晶裕訳1997平凡社ライブラリー版で読む。
A Lady's Life in the Rocky Mountains by Isabella L. Bird
1873年9月から12月、イザベラ・バードさん(42歳)の90日間800マイルにおよぶアメリカ西部ひとり旅。(日本奥地紀行の5年前)
1973年というとゴールドラッシュも南北戦争も終わってる。ユリシーズ・グラント大統領の時代。日本では岩倉使節団が帰国し征韓論が始まり明治六年政変があった年。

西部って荒くれ無法者だらけで治安悪いんじゃ?って思うけど英国婦人がひとり旅して大丈夫な状況。(リボルバーは持ってる)
西部の男たちはむしろ見慣れない英国婦人に遠慮して声をかけないけど、わりと親切な紳士も多い。

バードさんはヴィクトリア朝全盛時代の人物。グラッドストン自由党内閣の時代。大英帝国の全盛期。アガサ・クリスティーが少女時代に見た老婆の質感。

日本奥地紀行のように妹にあてた手紙という体裁。
タホ湖から始まってる。バードさんはニュージーランドを旅してからカリフォルニアにやってきたらしい。
まずサンフランシスコからパシフィック鉄道でワイオミング・シャイアンへ向かってる。
そこからコロラド準州を馬を借りて旅する。なんという女傑。

そういえば映画「八十日間世界一周」にもシャイアンが出てくる。この小説が書かれたのも1873年だ。
ちなみにビリー・ザ・キッドが21歳でニューメキシコで射殺されたのは1881年。やっぱりまだまだ西部は荒くれ無法者のいる場所。

バードさんのぶっちゃけた心の声が出ちゃってる。「中国人労働者が汚い!」「モルモン教徒の女たちがみんな醜い!」(この当時はまだブリガム・ヤングが存命中)
「シャイアンが神に見捨てられた土地で鉄道以外なにもない!」「暑い!」「噛み煙草をくちゃくちゃやってるヤンキーたちがいっぱいいてほとほと嫌!」

アメリカ西部は蠅の大群、ブヨ、ガラガラヘビ、など害虫害獣だらけ。南京虫も多くて、シーツを清潔にしてても防げなかったという。
そして意外な動物。スカンクってアメリカの動物だったのか。スカンクにやられるとしばらく臭気から逃れられなかったらしい。犬は鼻を血が出るまで地面にこすりつづけて死ぬ?!

バードさんって普通の旅行好き英国婦人を超越してる。5年前に初登攀されたばかりだというロングズ・ピーク(4410m)にヒーヒー言いながらスカート姿で登山?!

冬季コロラドと言えば「シャイニング」。雪に閉ざされる厳寒の世界。何を好んでそんな過酷なマネを。
感動的な美しい自然。そして出会った人々の描写。19世紀アメリカ西部の男たちを知る本でもある。それは「嵐が丘」を読んでいるようでもあった。

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