江戸川乱歩「三角館の恐怖」を読むべく、光文社文庫「江戸川乱歩全集」第15巻を手に取った。
長らく才気を感じさせる短編を書けないでいた乱歩。昭和25年に報知新聞に「断崖」(原稿用紙37枚)連載を機に注文が舞い込む。
長編を依頼されたのだが、戦争中に読んで感銘を受けたロジャー・スカーレット「エンジェル家の殺人」(1932)を日本を舞台に書き換えた「三角館の恐怖」を昭和26年に「面白倶楽部」(光文社)に1年連載。
(このロジャー・スカーレットという作家は2人の女性作家の合作ペンネームらしい。数冊の本を出したがもう忘れられている。この当時、乱歩はこの作品をベスト級に賞賛していた)
これ、小学生のころにポプラ社シリーズで読んだことあったはずだが、まるで内容を覚えていない。なので今読む。
その前に、他の収録作も順番に読んでいく。
「青銅の魔人」(昭和24年)
これも小学生のころポプラ社版少年探偵団シリーズで読んでるはずだが、やはりまるで内容は覚えていない。
青銅でできた歯車の音をさせた怪人が高級時計を盗んでいく。そして明智探偵と小林少年の活躍。
まあ、時代を感じさせる。「きたない浮浪児」という言葉は今の若者たちはわかるだろうか?
「虎の牙」(昭和25年)
予告されていた段階でのタイトルは「巨人と怪人」だった。連載開始時より本タイトルに改題。(ルブランのルパンシリーズと同じタイトルだが関係ない)
神出鬼没の人さらい魔法博士と明智探偵、小林少年の対決。これもトリックを使い回した子ども向け娯楽作。とくに言うべき感想もない。
「断崖」(昭和25年)
これは大人向け。自分は読むのが2回目。男女の会話から見えてくる犯罪。悪女の告白。現代の読者にはどうってことない内容かもしれない。
「三角館の恐怖」(昭和27年)
話の筋書きは原作そのままに、文章は私流に自由に書いたもの。連載第3回で犯人当て懸賞が予告され、第9回で末尾に「読者への挑戦」を掲載。犯人当てを挑んだ。
築地の外国人居留地の「三角館」は震災も戦災も耐えそこに建っている。双子の老兄弟が正方形の土地に建つ屋敷を対角線上にふたつに等分して暮らしている。弁護士の森川は兄・蛭峰健作(70)に呼び出されてやってきた。
先代の残した遺言では2人の双子兄弟(拾われた捨て子)のどちらか長生きしたほうに全財産が譲られる。兄には二人の息子がいる。弟の蛭峰康造には実子がおらず養子と養女がいる。養女の桂子には証券業を営む夫の鳩野芳夫がいて三角館で同居している。この鳩野以外の蛭峰家の子供たちはそろいもそろってみな生活無能力。父に遺産が渡らないと、みんな路頭に迷う。
病気で先のない兄健作は弟康造に遺産を均等に割ることを提案。だが長生き競争に勝利しそうな弟は提案に応じる理由はない。
康造の家では手提げ金庫から現金が少しずつ抜き取られているという事件が発生している。康造が鳩野にその件で相談している最中、何者かによって射殺。犯人が来ていたコート、帽子、ピストルは雪の積もった庭に棄ててある。
篠刑事と森川弁護士がホームズとワトソンのごとく事件を調査。するとこんどはエレベーター密室で、弟が先に死んだけど遺産は均等に分ける…という署名をしようとした兄健作老人までもが刺殺。
さらに猿のような顔をした不気味な老執事にも殺害予告。篠刑事は真犯人の目星がついている様子。犯人を罠にかける。
資産家のお屋敷で、遺産相続をめぐる殺人事件。とても古典的なシチュエーション。
海外作品を日本に置き換えた作品だと聞いていたが、登場人物たちの名前を日本人に置き換えたという程度で、ほぼ日本要素ゼロ。
読んでいるときは「こういうのでいいんだよ」感。たぶん、推理小説を初めて読むという中高生には刺さるかもしれない。
真犯人の殺害動機は意外っちゃ意外だが、それほど納得もいかない。
とても30年代の英米ミステリーの王道らしい。しかし、いつまでもこんな内容では飽きられるのも致し方ない。今ではもうこの作品もあまり話題にならない。
今作をもって、江戸川乱歩で気になっていた作品はほぼ読んでしまった。
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