石持浅海「身代わり島」(2014 朝日文庫)を読む。「小説トリッパー」2011年冬号~2012年冬季号に連載されたものを大幅に加筆修正して一冊にまとめたもの。
どんな内容なのかまるでわからないタイトル。なんとなくタイトルと表紙ジャケットに魅力を感じてこれを選んだ。「島」が舞台のサスペンスだと想像して読み始める。
戦争末期に本土の造船所を米軍機からの空爆から守るために、かがり火を焚いて(強いられた?)島民自ら多大な犠牲を負ったという伝説を持つ、伊勢湾に浮かぶ小さな本郷島。
そこでロケハンされた名作アニメ「鹿子の夏」のファン5名と、島おこしを画策する鳥羽市職員らが集まる。島にはアニメファンによる聖地巡礼を臨まない「反対派」もいる。
島の民宿「高梨」に宿泊。この家にはアニメヒロイン「鹿子」のフィギュアそのままの姿をした彩音という美少女娘(12歳ぐらい?)がいる。どうやら企画立案者には、この子にコスプレさせて利用したい…という下心。それで広告代理店の小岩井が女子2名を強く勧誘したのか。
まだこれから何をすべきか?決まらないまま酒を飲んでる。首を折って破壊したフィギュア人形がみつかるという、ちょっと嫌な事件も起こる。
翌日はみんな二日酔い。だが、そこから長い長い1日が始まる。
参加者の22歳コスプレーヤーのリンちゃん(辺見鈴香)が出かけたまま行方不明。スマホも繋がらない。この島にそんな場所はないのに。
みんなで探すとアニメにも登場した祠の裏でリンちゃんの遺体が発見される…。
この本のヒロインは「鹿子の夏」ファンとして参加したコスプレーヤーでもある木内圭子28歳。民宿の彩音ちゃんを見たら、もうコスプレはキツイ。
そして「高梨」にいた別の単身釣り客・鳴川(30歳ぐらい?)が、ちょっと信じられないぐらいに冷静沈着紳士。感心するほど社会常識を兼ね備えていて、適切に事件に対処。他人の気持ちを察し、物事を鋭く観察。論理的に思考する唯者じゃないスーパー名探偵。
やがて、高梨の彩音ちゃんの行方がわからなくなる。同じころ、島に移住してきたという痩せてて暗くて不気味で攻撃的なアニメオタクのコンビニ店員青年横山の行方もわからなくなる。
この横山という男が東京新宿区で幼女に対するわいせつ行為で現行犯逮捕された過去が判明。部屋にはアニメポスター。
感心するのが鳴川。前科があるというだけで犯人と決めつけない。警察に先入観を持たせないようにするなど、法と人権に配慮した慎重な行動。なかなかできることじゃない。
この島の島民がみんなわりとまともというか、理解力があってちゃんとしてる。島の有力者的老人・新見ですらも、すごく最新アップデートされたコンプライアンスと社会常識と道徳感を持った紳士。この老人と鳴川は釣り仲間で友人。
そんな島民と滞在者みんなで彩音ちゃん(この子はアニメに一切関心なしw)を必死に守ろうとする話。
島を舞台にしたミステリーなのに、島民がぜんぜん閉鎖的でない。古い因習とかにとらわれていない。東京よりもむしろ理想郷。
カンで選んだ本だったけど、正解だった。自分もその島にいる感覚に没入できた。面白かった。鳴川と圭子に恋の予感と余韻…というラストも爽やか。
読みやすいしわかりやすい簡潔で平易な文体。分量がコンパクトにまとまっている。読者を納得させにかかってたらもっと分厚くなるはずだけどそうなっていない。語りすぎてない。3~4時間の余暇をすごすのに最適。オススメする。今後、石持浅海の他の本も読んでいこうと思う。
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