2023年4月29日土曜日

立原正秋「花のいのち」(昭和42年)

立原正秋「花のいのち」(昭和42年)を新潮文庫(昭和53)で読む。昭和41年から42年にかけて「婦人生活」に連載されたもの。
これは読みたいから読んだというわけでなく、そこに「無償で持って行っていいよ」と置いてあった本なので連れ帰って読んだ。

立原正秋を読むのは今作が初めて。なんとなく斜め視界に入ってはいたけど読み方も知らなかった。「たちはらせいしゅう」かと思ってたら「たちはらまさあき」が正しかった。

立原正秋(1926-1980)は大正15年に朝鮮慶尚北道安東郡で生れた在日朝鮮人。本名は金胤奎(キムキュンキュ)。昭和10年に両親と横須賀へ移り住み、昭和15年に創氏改名により金井正秋を名乗る。昭和22年に日本人と結婚したことで日本人に帰化し米本正秋となる。
昭和26年より立原正秋というペンネームを使用。亡くなる2か月前に本名も立原正秋となった。そのへん、自分は今回はじめて知った。

鎌倉鵠沼海岸に邸宅を構える財閥系石油会社社長の息子柚木正宏と見合い結婚した窈子が主人公。結婚当時正宏34歳、窈子23歳。結婚した年の秋に長女久美子も生まれた。周囲がうらやむ暮らし。
だが結婚3年目にして正宏が家の近所に女を囲っていて子どもも3人いて、しかも一番下の子が久美子と同じ歳だと知る。
窈子は離婚を決意。一度鎌倉の実家に戻る。久美子を柚木家に渡し、沼津の柚木家別荘と当面の生活費をもらう。

窈子は生活していくために沼津の別荘で、東京の兄の勤める出版社の保養所兼民宿をしてみようと思いつく。料亭みたいな家に沼津荘と名前を付ける。
兄が美術史家の織部という長身でインテリの男を連れてくる。妻を亡くして5年。子どももいないという。窈子は恋の予感。織部も自分に好意を持っていそう…。

そしてトントン拍子で結婚の約束。織部はヨーロッパから窈子へ手紙。奈良から手紙。
窈子は織部を追いかけ奈良秋篠寺へ。以前にこの寺にある伎芸天像の絵を描いて、裏に漢詩を添えて沼津に送ってくれた想い出。
奈良のホテルがどこもいっぱいなので二人同じ部屋に泊まって男女の関係。だが、織部の義理の妹泰子が織部との結婚を狙ってる。窈子は気が気じゃない。

ささやかな二度目の結婚式。多くの関係者から祝福される。新婚生活。仕事で奈良へ出かける織部を窈子は見送ったのだが、数日後、織部が薬師寺で怪我をしたという知らせ…。

二十代後半の女が1年で体験したいろんなことドラマ。女性読者を対象とした女性のためのドラマ。
調べてみたら、立原正秋は新潮文庫では「冬の旅」一冊だけが現役らしい。

0 件のコメント:

コメントを投稿