2023年1月25日水曜日

黒岩重吾「北風に起つ」(1988)

黒岩重吾「北風に起つ 継体戦争と蘇我稲目」(1988)を読む。1991年中公文庫初版で読む。3月にBOで110円ゲット。
黒岩重吾(1924-2003)の古代史小説を読むのはたぶんこれで3冊目。なんと継体天皇(450?-531?)のヤマト入りと蘇我稲目(506-570)を描いた古代史小説。こんな本があったことを今までまったく知らなかった。

てか、継体天皇みたいな古墳時代の情報が少ない大王で620ページ大長編を書けるものなのか?
自分の継体天皇知識は、雄略朝が断絶したとき大伴金村らによって越の国から応神の子孫ヲホド王が擁立されたということ。九州筑紫で磐井の乱が起こったこと。現在の皇室を確実に遡れるのは継体天皇までということ。大山古墳は仁徳陵というより継体陵かもしれない?ということ。それだけ。
では気合を入れて読んでいく。なにせ分厚い。

ほぼ蘇我稲目が主人公。父蘇我駒(高麗)は文字を学び百済から将軍を招き大和で勢力を伸ばす野心。ヤマトは政権空白期。越から男大迹王を迎え入れることに熱心な大伴金村物部麁鹿火とは距離を置いて中立。
稲目は石川姫に夢中だが父駒は橘王女との政略結婚を強要。
男大迹王は河内国樟葉宮で大王に即位するも大和に入ることに慎重。有力豪族の平群真鳥が男大迹王を大王と認めないし、北の蕃夷と蔑む。

稲目、男大迹王、平群、三者それぞれの思惑、婚姻、そして朝鮮半島の国際情勢。
黒岩氏が「きっとこんな会話したはず」というやりとりが延々と続く。会話と心の声のわりに事態の進展具合が遅い。一族の消長がかかってるのでみんな慎重。

平群は男大迹王のヤマト入りを阻止すべく筒城宮を襲撃。ここ、ずっと平群真鳥の血気盛ん息子鮪(しび)が主人公。わりと軍略と戦記の記述が多い。
そして平群は破れ一族は自決。
平群が滅びると蘇我も物部も危機感。このままでは男大迹王擁立の最大の功労者大伴が増長してしまう。

稲目は父駒を説得し、まだ9歳の韓子姫を物部尾輿に与えることで姻戚関係と同盟。尾輿は物部本宗家の麁鹿火にも蘇我から「贈り物」が必要だと稲目に告げる。駒は石川姫を与えるしかないと言うことで稲目は涙目。蘇我と物部が組んだことで男大迹王は弟国宮へ戦略的一時撤退。
稲目は男大迹王暗殺部隊を送るもほぼ全滅。この本で戦闘シーンはここまで。

そうこうしてる間に男大迹王は山背の秦氏、安倍氏も倭国大王即位を支持。蘇我氏の傑物稲目は考える。時代の流れに乗っかって大王をヤマトに迎え入れよう。大友や物部に比べて武力で劣るけど、知略で蘇我を興隆させよう。
百済が高句麗との戦いで劣勢。その感に新羅は加羅諸国を併呑しようと狙う。新羅は筑紫の磐井と結束を強める。蘇我は百済聖明王から物部・大伴、男大迹王らが結束してヤマト政権を安定化させてほしいと伝えさせる。

ヤマト豪族たちの駆け引き、男大迹王側の政略。稲目は不仲妻の橘王女を男大迹王の弟王子檜隈高田皇子(後の宣化)の妻に差し出す。惜しくはないけど最後まで気位が高い橘王女に嫉妬もする。だが、こいつは大王にしたくない。それに尾張連の子たちが大王になることにはヤマトの豪族たちは認めない。手白香皇女(仁賢天皇の皇女)が生んだ天国排開広庭天皇(後の欽明)を大王にする!(稲目の策略で安閑・宣化は大王に即位してないっぽい)

そして男大迹王は磐余に迎え入れられる。長い長い思慮の末の決断。武力によってヤマトに入ることもできたけど、「ヤマトの総意によって迎え入れ要請を聞き入れてやるという態度で大王にならなければすぐ潰される。」という男大迹王の長期的視野。

そして蘇我稲目は大友、物部を立ててやるけど、いずれは大臣として蘇我を大きくすることに野心。尾輿と組んで金村を失脚させ、祭祀権と石上の武器庫を押さえる物部に対抗するには仏教をこの国に広め大王家に浸透させよう…というところで長いドラマが終わる。

自分、古墳時代の大王については古代史本を何冊か読んできた。それでも今もぼんやりとしかイメージできない。いろんな説があるし。

こういう小説でドラマとして見るといろいろ活き活きとイメージできる。巻末に黒岩重吾氏による創作上の学説の取捨についての解説がある。記紀に少ない記述しかない継体についてここまでの長編小説に仕上げた苦労。そして想像力に感心。
男大迹王(継体天皇)の出自は不明。年齢については日本書紀よりも古事記の記述によって死亡時が43歳という説をとっている。蘇我稲目の妻の氏族も不明。

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