2022年6月4日土曜日

開高健 短篇選

2019年1月に岩波文庫から出た「開高健短篇選」(大岡玲編)を読む。11本の短編を収録。

開高健(かいこう たけし 1930-1989)を読むのは初めて。
この文庫表紙だと「Ken Kaiko」と署名がある。ということは「健」を「たけし」と読んでも「けん」と読んでも、どちらでも構わないってこと?
では、掲載順に読んでいく。

パニック(昭和32年)
ササが実をつけると鼠が大量発生する…という警告を出した末端の役人俊介。その警告は上司に握りつぶされる。だが、はたして鼠の発生は山から農村へ、そして都会へと押し寄せる。人々の心にパニックを引き起こす。
そして、その後の混乱、上司たちとの駆け引き、政治、徹底的にリアルに描かれる。小役人たちの卑しさと浅ましさとこずるさが胸をムカムカさせる。

主人公俊介、課長、局長、そして農学者。主な登場人物はこの4人。それぞれのキャラのいやらしさと駆け引きゲームが丹念に精密に描かれる。構成が完璧な短篇。この作品は誰でも一読すれば天才の所業だとわかる。それほどの名作。すべての人に一読を薦める。
開高健はカミュ「ペスト」(1947)を読んでいたのかもしれないなと感じた。自分は「シン・ゴジラ」を連想した。

巨人と玩具(昭和32年)
製菓会社の熾烈なキャラメル販売合戦。宣伝広告に起用するアイドルタレント、懸賞、付録などを決定する重役会議、販売の現場営業、工場、小売店…。徹底リアルに刻々と展開を追う。
あれほど奮闘したのに結果は敗北。哀しい企業戦士。すべて徒労。今現在も日本中で展開している企業の虚しいシェア争いドラマ。企業サラリーマンをヘミングウェイふうに描くとこうなるかもしれない。

裸の王様(昭和32年)
画塾へ連れられてきた孤独な児童と絵を教える私の交流。アンデルセンをテーマに画を描くのだが、そこに大人たちの思惑。正直、活字からはどんな絵が描かれてるのかイメージできないし、児童の美術絵画教育がどうあるべきなのか?まったく考えたこともない自分には響かなかった。

なまけもの(昭和33年)
終戦直後の貧困。引き揚げ者と失業者。住むところにも困るし食糧難で腐ったものも口にする。貧乏学生たちは共済会で日雇い仕事の日々。とにかくみんな不潔。そしてなぜか共産党候補の選挙戦に身を投じることに…。

森と骨と人達(昭和37年)
ワルシャワ蜂起から16年後のポーランド。ドイツ人とは?ユダヤ人とは?モスクワ、イスラエル、旅から旅。自問自答。
開高健って大江健三郎といっしょにソヴィエト作家同盟からモスクワに招待されてたのか。

兵士の報酬(昭和40年)
ベトナム特派員。くわえたばこでタイプライターを打つ。米軍に従軍し最前線ルポを東京に送る。サイゴンには金持ちか貧乏人しかいないという…。

飽満の種子(昭和53年)
ベトナムでの潜入阿片体験記。

貝塚をつくる(昭和53年)
ベトナム華僑との釣り道楽。そして無人島。開高せんせいは中国古典にも造詣が深い。詩とか暗唱してさらっと披露できたりするってすごい。

玉、砕ける(昭和53年)
香港での旧友(初老の作家)との再会。香港の浴場について。昭和53年って中国本土は文革中。

一日(昭和63年)
ふたたびベトナム戦記。ロケット砲の飛ぶ街。日本人記者の死。フォーを売り、パイナップルを売る街の風景。

掌のなかの海(平成2年)
酒場で出会った先生と読んでる人との会話。

後半はエッセイっぽかった。とくに感想もない。

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