2022年3月13日日曜日

E.ブロンテ「嵐が丘」(1847)

エミリー・ブロンテ(Emily Jane Brontë 1818-1848)「嵐が丘 WUTHERING HEIGHTS」(1847)をついに読み通した。鴻巣友季子訳の平成15年新潮文庫版で。

これ、子どもが読むにはハードルが高い。寒風吹きすさぶヨークシャーのお屋敷「嵐が丘」というイメージがまず日本人にはない。長年、クリスティーやホームズを読んで、やっとなんとなく英国の田舎風景がイメージできるようになってきた今読む。

間借り人ロックウッドくんが雪で帰り道が分からなくなり嵐が丘(アーンショウ家)に無理を言って泊めてもらうシーンから始まるのだが、これがすごくイメージしにくい。英国の田舎者はみんな偏屈短気。社会的礼儀も常識もない。

ロックウッドくんは興味本位?で「鶫の辻」の家政婦ネリー・ディーンさんにアーンショー家のことを根掘り葉掘り聞く。
鶫の辻(リントン家の屋敷)と命名したのは訳者の鴻巣氏。 ワザリング・ハイツが「嵐が丘」と訳されてしまってる以上、スラッシュクロス・グレインジも「鶫の辻」とでも訳さないと対等にならないというのが訳者の主張。
そもそも日本人は屋敷に名前を付けない。〇〇荘とかつけると逆に都市部の貧乏アパートをイメージしてしまう。下男や女中のいる家も昭和ドラマの中でしか見たことがない。

ディーンさんはかつてアーンショー家で乳母だったので、アーンショー家のことをよく知ってる。このディーンさんがこの物語の語り部。すごく細かいエピソードまで覚えているので頭脳明晰だし常識人。それに健康。

話は18世紀末、アーンショーの大旦那がリバプールから男児の孤児を連れてくる。この子はヒースクリフという名前がつけられた。アーンショー家にはヒンドリーキャサリンという兄、妹がいた。
時代背景がわからないと、どんな衣服を着てどんな屋敷にすんでいるのか見当もつかない。時代的におそらくジョージ3世の時代だが、この物語は2つの屋敷と家族を家政婦目線で語るのみ。その時代の英国社会や事件のことなんかはまるで書かれていない。

孤児は大旦那やディーンさんに愛され、ヒンドリーとケンカし、キャサリンと遊んだりしながら育つのだが、大旦那が亡くなると若旦那ヒンドリー(フランシスという妻がいる)によってヒースクリフは下男にされほぼ虐待される。ヒースクリフの不幸な少年時代が語られる。この箇所は読んでて横溝正史味がする。

そしてヒースクリフは「嵐が丘」を飛び出して行方知れず。だが、戻ってくる。お金を稼いだし頭もよくなってる?!
その間にキャサリンはリントン家エドガーと結婚。キャサリンは昔の馴染みでヒースクリフと仲良し。屋敷にちょくちょくやってくる。エドガーは面白くない。ヒースクリフにエドガーの妹イザベラがお熱?!そして駆け落ち?
だが、ヒースクリフの帰る先は嵐が丘しかない。イザベラの想像もできない酷い場所。窮状をディーンに手紙で訴える。だがエドガーは「もう兄と妹ではない」と拒絶。

キャサリンは娘を残して病死。イザベラは嵐が丘からロンドンの南のほうへ移り、リントンという息子を生む。
ヒンドリーはヒースクリフを撃とうとして銃が暴発大怪我。やけ酒の末に死亡。ヒンドリーは多額の借金。家も抵当。その権利を持ってたのがヒースクリフ?!嵐が丘はヒースクリフの物。そしてヒンドリーの子ヘアトン(言葉遣いが粗暴)はヒースクリフの下男に落ちる。この子は何も教育を受けていない。

そしてキャサリンの忘れ形見キャシー(キャサリン)は父エドガーと仲睦まじく暮らす。
そしてイザベラ死亡。息子リントンをエドガーは預かってくる。その子をよこせとヒースクリフは言ってくる。その代理で鶫の辻にやってきた嵐が丘の使用人老人ジョウゼフがまともじゃないし粗暴。
リントンにもヘアトンにもまともな教育をしてない。リントンとキャシーが恋仲になっても親として適切な行動をしていない。それどころかふたりを結婚させて病気のリントンに医療も与えず死なせる。エドガーも若死しキャシーの財産もすべてヒースクリフのもの。

「嵐が丘」を恋愛小説の傑作と聞いていた。だが違ってた。ヒースクリフという出自の定かでない悪党が、「庇を貸して母屋を取られる」という言葉のごとく、アーンショウ家とリントン家の両方を乗っ取るサスペンススリラー?!

怒鳴って威張って洗脳して、子どもたちに何も与えず、弁護士も買収し、すべてを奪っていくヒースクリフは、自分には完全に北九州監禁殺人事件に見えて来た。鬱文学だし嫌ミス。早くだれかヒースクリフを殺してくれ!
イギリスの法律ってどうなってる?お代官のようなものは機能してないのか?そもそもなんでアーンショウ家とリントン家の子(相互に従妹同士)のような間だけで婚姻を繰り返す?

そして1802年。ロックウッドくんはひさしぶりにディーンさんに再会。嵐が丘がどうなったのかを知る。ディーンさんの口から語られるヘアトンとキャシーの現在。そしてヒースクリフの死。
両家の三世代に渡る愛憎劇。屋敷と墓標。そんな味わいの深い大河小説語り。映画のように場面がイメージできたし、カメラワークが現代的。

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