2022年2月23日水曜日

中公新書2566「海の地政学 覇権をめぐる400年史」(2019)

中公新書2566「海の地政学 覇権をめぐる400年史」竹田いさみ著(2019)を読む。著者は獨協大教授で海洋安全保障の専門家だそうだ。
書名には地政学と入っているけど地政学の本ではない。アルフレッド・マハン(1840-1914)やハルフォード・マッキンダー(1861-1947)といった名前も出てくるけどほんの少し。この本の主題ではない。

この本は「15世紀の世界航路拡大を振り返りつつ、17世紀にはじまる海洋覇権をめぐる英蘭戦争、大英帝国の興隆、二つの世界大戦と冷戦、さらに海洋秩序の模作や現在の課題など、海洋史400年を、地政学的な視点を取り入れながら、描くものである。」というもの。

この本では大航海時代はあまり触れない。15世紀にはスペインとポルトガルしか外洋を航海できる帆船と技術を持っていなかった。そのころ英国の主要産業は毛織物と海賊(?!)
(教皇子午線とかトルデシリャス条約とか、かろうじて高校時代に見聞きした単語は覚えていた。人類史上初めて海上に線が引かれた。)

イギリスとオランダの海洋覇権をめぐる戦いとかもほんの少し。国際法の父と呼ばれるオランダのグロティウス(1583-1645)にはすこし触れる。初めて海洋自由論を発表。「いずれの国家も海洋を支配してはならない」と英国をけん制する論理武装。

この本のほとんどがアメリカを扱う。かつて鯨油を求めて大海へと進出して海洋覇権への挑戦を開始。
自分、ペリー艦隊って太平洋を渡って浦賀にやってきたんだと思ってた。アメリカ東海岸から喜望峰を回ってマラッカ海峡を通って日本にやってきてた。知らなかった。
ランプ燃料に鯨油を使っていた時期はほんの短い期間。すぐに石油から精製された灯油へと置き換わる。世界は石油を求めて覇権を争うようになる。(人類が石油を使うようになってまだせいぜい百数十年)

アメリカが大艦隊を持つきっかけとなった人物がセオドア・ルーズベルト(1858-1919)
すでにハワイを盗み取ったアメリカ帝国は次にキューバとプエルトリコが欲しい。海軍次官からマッキンレー政権の副大統領を経て大統領となったルーズベルトは米西戦争でグアムとフィリピンも得る。コロンビアから独立させたパナマに運河を作る。

そして米英日の海軍軍拡レース。そして第一次大戦。そして米英主導の軍縮。「航行の自由」という言葉を初めてウィルソン大統領が提唱。
(空母を運用し実戦で使用した国はアメリカ、イギリス、そして日本の3か国だけ。)

この本で一番重要な箇所は第4章「海洋ルールの形成」。世界は30年かけて「国連海洋法条約」へ取り組み始める。
アメリカにとって転機となったのがトルーマン大統領。連邦政府と州政府の間に漁業資源と海底資源の管理をめぐる主導権の争い。そしてトルーマン宣言で初めて「大陸棚」という概念が登場。
これがメキシコ、アルゼンチンやチリに飛び火。中南米諸国がこぞって原油が眠る海底資源を意識し大陸棚と漁業資源に関する宣言をするようになる資源ナショナリズムへ。これがやがて排他的経済水域(EEZ)へと発展。この動きにアメリカは反対w

国際ルール制定へ向けた動きは国連へ。領海は3カイリと主張(公海は広いほうがいい)するアメリカとイギリス、4カイリを主張するスカンジナビア諸国、12カイリを主張するソ連。
(アメリカはレーガン政権になってから12カイリを主張。ソ連のスパイ戦がアメリカ沿岸に来ると困るしw)

紆余曲折を経て、領海12カイリ、接続水域24カイリ、排他的経済水域200カイリで国連海洋法条約が1982年に採択され94年発効。日本は96年に批准・公布。

だが、肝心のアメリカが調印しないw 
反対する理由が深海での資源開発のありかた。国連では多くの投票権を途上国が握ってる。途上国からすると先進工業国の資本と技術で深海底資源を分割領有化される心配から、深海底の資源は「人類の共同財産」とした。アメリカはそこが不満。技術力のある国が自由に資源を開発したい。リベラル。

この本はさらに第5章「国際ルールに挑戦する中国」が衝撃。
中国は国連海洋法条約よりも早く領海法という国内法を制定。領海法のほうが国際法よりも上位にあることを明文化。
「中国は実効支配してない島々や海域を一方的に領有していると法律に記載し、あたかもすでに領有権があるかのようなイメージを作り上げる新手を編み出した」w

世界中の国々が認めている無害通航権にも中国は制限を設けている。
「中国は国際ルールとしての海洋法条約を、中国に有利な条文は受け入れ、不利な条文は受け入れないという方針を採用している」w
中国の主張する「九段線」に国際法上の根拠がないことを常設仲裁裁判所(ハーグ)は示した。だが中国は裁定を受け入れていない。
アメリカは国連海洋条約に調印していないが、同法を慣習法として尊重はするという立場。だが、このままではアメリカが「法の支配」と言ったところで中国は聴く耳を持たない。

世界が30年かけてやっと合意に至った緻密で芸術的な国際海洋法条約を1か国でも無視するようになれば、武力を背景に世界の海を好き勝手に扱う国が他にも出てくるかもしれない。

中国を世界の一員だと思っている人は甘い。経済を優先して中国と取引するやつは中国人だと思ってる。
かつて世界秩序に挑戦しようとしたドイツや日本やソ連は滅びた。次は中国の挑戦が退けられる番だと思う。(プーチンロシアも)

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