2022年2月17日木曜日

岩波新書1893「ユーゴスラヴィア現代史」(1996)

ユーゴ解体から30年という節目の2021年に、岩波新書「ユーゴスラヴィア現代史」の改定新版(2021)が出たので手にとった。
著者である柴宣弘(1946-2021)の死後、第6章に「少数民族アルバニア人をめぐる二つの紛争」、そして第7章が書き加えられた新版。

実は自分は遠い昔、リュックサックひとつに最小限の着替えを詰め込み、トーマスクック時刻表片手にヨーロッパを鉄道パスで回っていたとき、ベネツィアから足を延ばして、パス範囲外のスロヴェニア・リュブリャーナ、そしてクロアチア・ザグレブまで行ったことがある。
ただ、それは行ってみただけ。一人旅とか何も楽しくなかった。歴史とか文化とか知らなかったし、両国に違いを感じられなかった。
飛び込みで泊まったリュブリャーナのホテルとかまだあるんだろうか?ザグレブのユースホステルとかまだあるんだろうか?夏のザグレブは暑かった印象。

ユーゴのあるバルカン半島はハプスブルク帝国とオスマン帝国の境目。それは民族が複雑に入り組む。
露土戦争、ベルリン会議、セルビア、モンテネグロの独立、バルカン戦争、ハプスブルク帝国などをさらっとおさらい。
「6つの共和国、5つの民族、4つの言語、3つの宗教、2つの文字」でやってきた国家の2度の分裂と解体。このへんのことは高校世界史で習って以来すっかり忘れていた。

第一次大戦後に誕生したユーゴが「第一のユーゴ」。自分はセルブクロアートスロヴェーヌ王国と習った。1929年にユーゴスラヴィアと国名を改称。
ここからキーとなるのが最大勢力セルビアとナンバー2クロアチアの争い。この両民族は言語は似ているのに使用する文字が違う。(この本を読んでスロヴェニア語はこの両国と言語コミュニケーションが難しいことを知った。)
そして次の敵はナチスドイツ。クロアチアのウスタシャ、セルビアのチュトニク、パルチザン、英国とソ連の思惑。
そして第二次大戦後のユーゴスラヴィア社会主義連邦共和国成立。

チトーってカリスマ独裁者だと思ってた。独自の社会主義を目指してスターリンからコミンフォルム追放。以後、ソ連東欧圏との協力が得られずに国民を喰わせていくためにわりと苦戦。反チトーと親ソ連派は政治犯として収容所。
憲法改正で連邦政府の力を弱めたりして国をまとめようとする。経済不振、そして民族主義。コソヴォ問題。

チトーの死後すぐには批判は起きなかったのだが、80年代後半になると主にセルビアでチトーへの尊敬が薄くなっていく。軽んじられ批判されていく。
そして91年、スロヴェニアとクロアチアの独立宣言。クロアチア領内のセルビア人、セルビア領内のクロアチア人たちが紛争に巻き込まれ犠牲となり難民化。

クロアチア人とセルビア人とボシュニャク(ムスリム)人の三つ巴戦となったボスニア紛争のとき、ミロシェヴィチが国際世論で悪玉にされたのはカトリック勢力(バチカン)の誘導?!民族浄化してたやん。
そういえば国連を代表して明石康という旧ユーゴ問題担当の人がいたってことを思い出した。結局、外交官としてできることが何もなく、NATO軍の存在に押されはじき出されて辞任という顛末。まったく忘れ去られていた。

この本は旧ユーゴだった国々の現在(2021年のコロナ禍まで)を教えてくれる。子どものころからずっとニュースや新聞の片隅で、なんとなく目にしていたことを整理して教えてくれる。
ああ、そういえばセルビアモンテネグロという国名の時代もあったな。この2国はとくに問題を抱えていない同士の友好国。
旧ユーゴ各国はEU加盟を目指して相互に友好を演出中。

ボリュームがちょうどよい。このぐらいがちょうどよい。ずっと手許に置いておきたい一冊。

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