角田光代の原作小説を映画化した「紙の月」(2014 松竹)を今になってやっと見る。監督は吉田大八。脚本は早船歌江子。ROBOTの制作。
平凡なヒロイン梅澤梨花(宮沢りえ)による巨額横領事件とその顛末。宮沢りえにとってひさびさの主演映画として話題。この映画はかなり評価もされた。
バブル崩壊直後の1994年が舞台。銀行ほど醜態をさらした業界はない。自分に甘くカネカネカネでやってきた人間たち。周囲を巻き込んでの奈落。自民党と大蔵省の敗北。日本の敗戦。どこもかしこもみんな不幸。
映画の冒頭が女子中学生たちの讃美歌合唱。そして同じような形の一戸建て住宅が画一的に並ぶ街の風景。
ヒロイン宮沢りえは夫(田辺誠一)と一緒に朝出勤していく。銀行の契約社員?
国債のセールスに個人宅を訪問し、老人からセクハラ逆質問をされる。前の営業は客の言うままにお茶を入れたりしてた?
営業職がノルマとして何かを売ろうとすればそれはたいてい老人が相手。要らないものまで売りつける。ああ、銀行勤めとかセールスとか、そんな仕事は嫌だなあ。
銀行の直接の上司が近藤芳正。前任の営業今井(伊勢志摩)にはできなかった大口の国債を平林(石橋蓮司)に買わせることに成功したことで梅澤(宮沢)を褒める。
給料が上がって余裕ができたら夫に腕時計を買う。クレジットカードも申し込みたいのだが、夫はそのつどお金は降ろせばいいと言われる。
事務の現場を小林聡美がキビキビちゃっちゃと厳しく仕切る。勉強熱心な先輩。冷徹にこちらをまっすぐ見てる。相手の不自然なところはすべて見抜く。なんか苦手そうな人。
バブル崩壊後の銀行は女性営業(美人)がコツコツ10万20万を集める時代?
平林の孫(?)が池松壮亮。こいつは声に色気がある。駅改札で挨拶を交わしただけの梅澤にずっとついて来る。やだ、なんかちょっと怖い。
こいつの出現が真面目だったヒロインを変えてしまう。
デパートの化粧品対面販売って平気で4万円以上の商品を外回り女性営業職に売りつけてくる。怖い。隙あらば客の持ってる金を奪いにかかってくる。もう日本人は物欲を棄てるべき。いつまで金持ってることがすべての社会を続ける気だ。
このヒロインは手持ちの現金が足りずについ顧客から預かった金に手をつける。すぐに戻せばいいと考えたんだろうけど罠に落ちる。すごく嫌な気分になってみてらんない。
他人のお金を預かる仕事なんてやらないほうがいい。(櫻坂の松田は銀行で札束数えてたとかすごい)
夫の上海出張中に、駅のホームで出会った池松と見つめ合ってホテルへ。大胆にも不倫にまで踏み込む。
夫から免税店で買ったカルティエの腕時計を贈られる。そいういうの、銀行の人々は敏感。つねに他人の持ち物、金遣いを観察されてると同僚(大島優子)から警告。こいつも不倫彼氏からのロレックス持ってる。あー、やだやだ。バブルがはじけても人々の物欲と意識は変わってない。
大島「やりたいことは我慢せずやったほうがいい」ヒロインは若い男との愛慾の日々。このヒロインはとにかく押しに弱い。そうこうしてる間に夫は上海への転勤が決まる。
平林宅で孫池松には多額の借金があることを知らされる。どんどん嫌なフラグが立っていく。池松「借金は学費。父親はリストラ。じじいは他人に金なんて出さない。もう大学もやめる」
ヒロインが問い詰めると借金は150万ぐらい。「60万ぐらいなら払える…」ああ、バカ!
平林老人の出した定期預金200万を勝手に解約。定期預金証書を懐に入れる。ついに犯罪へ踏み出す。だがそれも小林聡美がしっかり見てる。とにかく不自然なことには敏感。ここで踏みとどまるべきだった。
ヒロインにとってその罪は「施し」のつもり。中学のときの讃美歌歌唱シーンが流れる。中学時代回想シーンのヒロインは平祐奈。中学のときの宗教教育が人格形成の一員になってる。
どんどん池松に他人の金で施しを与えていく。資産家老人たちを平然と騙すようになる。証書も偽造。悪質。
男との逢瀬のためにホテルのスウィートに泊まる。自分が金持ちだと装う。もう同情の余地はない。早く逮捕されろ!もう見ていられない。小林聡美がんばれ!
池松を失ったヒロインはもうとめどなく金に困る。カードも使えないし昼食代もない。金融商品のチラシを勝手に作って自転車でばらまくようにポストに投函していく…。
こいつを雇った銀行は人を見る目がなかった。
独自の倫理観による「施し」。罪の意識のないヒロインは詰問される部屋から全速力で逃亡w なにげにこの箇所数分間は映画として名場面だった。美しかった。やっぱ、地の果てまで逃げろ!と思った。
これほどまでにカネカネカネの時代に生れた人々は不幸。高額な商品サービスがあふれ物欲を刺激する世界は異常。金の使い道がたいしてない世界、格差のない世界ならヒロインは横領などという罪も犯さなかった。金の世界は全て虚構。金のことを考えないですむ世界に行きたい。
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