2021年7月15日木曜日

横溝正史「塙侯爵一家」(昭和7年)

横溝正史「塙侯爵一家」を読む。昭和53年角川文庫版で読む。

横溝正史が博文館を退社し作家一本でやっていく決意を固めた昭和7年に「新青年」に連載されたもの。昭和7年というと第一次上海事変、5.15事件のあった年。初刊行

高校時代に「犬神家の一族」「悪魔の手毬唄」「獄門島」「八つ墓村」と横溝代表作を一通り読んでたころに「塙侯爵一家」も持っていた。なにせタイトルが良い。表紙イラストも良い。
なのに読まないまま何処かへ逝ってしまい、ずっと未読だった。やっと同じものを入手して今回初めて読む。

霧の都ロンドン、ふたりの日本人が人を探して場末の酒場にやってくる。ひとりは軍人、もうひとりは運転手。
飲んだくれてテーブルに突っ伏してる青年がこの物語の主人公鷲見信之助。画家として挫折し金に困り遺書を書いている。

畔沢大佐はこの青年を、同じくロンドン留学中にアヘンに溺れ死にかけてる塙侯爵家七男の安道と入れ替えてしまう。ふたりは瓜二つ。
沢村大使令嬢の美子といい仲だが、病気でしばらく会っていないので、入れ替わった安道に気づかない。

塙侯爵家は大家族。長男は病死したばかり。次の兄晴道は不具で狂人。うまくいけば塙家を乗っ取れる。それが畔沢大佐の狙い。
ふたり一緒に帰国。船を降りる直前に美子は謎の女から「安道は偽物」というメモを渡される。

ひとまず兄幸三郎(資産家に養子に行った)の家に美子と一緒にやっかいになる。夫人の加寿子は晴道びいきで難しい人。この夫人も謎の女から手紙が届く。安道の正体に疑いを持つ。掌の紋を録ろうとする。だが、顔を硫酸で焼かれる大事件。
そして東京に帰る。侯爵85歳祝賀パーティーで侯爵が銃殺される。

これ、ラストで衝撃の真相のようなものは明かされる。読者は驚く。だが、ミステリーとは言えないサスペンスドラマ。そもそもよほど育ちの良い人じゃないと侯爵家の跡取り息子として入り込めない。昭和の初めごろの小説として読むなら満足感はある。時代を感じる。

孔雀夫人(昭和12年)
新婚旅行に旅立った夫婦。新妻の友人は不気味な女が新婚夫婦を睨みつけてるところを目撃。そしてその女も列車に乗り込む。
投宿した温泉地の崖で夫の恩師の妻の死体発見。夫に殺人容疑がかかる。夫が被害者女性と組み合ってる写真も何者からか送られてくる。
妻の友人夫妻たちが奔走し夫の無実を勝ち取る。恐ろしい犯罪の真相を突き止める。

古典的なトリックがあるけど、雰囲気は社会派。女性誌に掲載されたものなので女性目線。
まあ、読んでる最中はそれなりに楽しめた。

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