2021年7月20日火曜日

八甲田山 消された真実(2018)

「八甲田山 消された真実」(2018 伊藤薫 山と渓谷社)を読む。

1902年(明治35年)に八甲田山田代新湯に雪中行軍に向かった第8師団歩兵第5連隊の199名が大量遭難死した事件は当時から世間を震撼させた大事件だった。新田次郎の小説「八甲田山死の彷徨」と映画によって大変に有名。

映画はまだ見たことがないのだが、自分にとって新田次郎の「八甲田山」は人生において読んでいて最も怖い本の一冊だった。夏のファミレスで読んでいて、ずっと薄暗い吹雪の中をさ迷い歩いている感覚になる本だった。1人1人バタバタと疲労凍死していく状況の悲惨さと哀れさ。帝国軍人として戦場ではなく部隊の近くの冬山で死んでいく惨めさに心を打たれ慟哭。

「吹雪の惨劇」(小笠原孤酒)を参照して書かれた新田の小説は半分はフィクション小説にすぎない。「神は我々を見放した」という台詞も生存者から話を聴いた小笠原氏のスクープ。

で、2018年に山と渓谷社から出たこの本は、元自衛官で八甲田での雪中行軍を実際にやっていた人が様々な資料を収集し、新田の小説では得られない「真実」を追い求めた本。

日本という国は戦争でも自然災害でも大事故でも、「まあ、誰が悪いってことでもないよね?」という感じで誰も責任をとらない。だが、この本では大量遭難死を引き起こした原因とその責任を負うべき人物をハッキリと名前を挙げて糾弾している。

明治時代の帝国陸軍は厳冬期の雪原での戦闘経験はほとんどない。日清戦争で朝鮮の寒さや凍傷に苦しむ兵士たちの経験はまだ活かされていない。
装備が貧弱。一部の上官しかウール素材の衣服はない。フリースとか毛のコートとかもない。靴の上に藁靴を履く?それだけ?しかもこの日は日本の観測史上最低の大寒波。汗をかけばそこがやがて凍り付く。

準備や事前の調査もほとんどいい加減だったことが資料から明らかになっていく。しかも上官と下士官と一兵卒の間に意志の伝達もままならない。士族と平民の区別もあった。
しかも大臣報告ですらも嘘とデタラメの作文。公文書なのに地名も地形もよくわからないまま書いている。軍の隠ぺい体質。とにかく宮城岩手から徴兵され死んでいった若者たちが憐れ。

山口少佐は優しいけど無能な隊長。平民で士官学校を出ていない神成大尉を見下す倉石大尉。長谷川特務曹長。極限状態で低体温で判断力が失われているのだから致し方ない。
だが、著者は津川連隊長の人格と挙動発言すべてを辛辣にツッコみまくり。こいつが199人を死なせたのに軽い処分の後に栄転。

第31連隊の福島大尉も酷い。この時代の軍人は庶民にとってはほぼ鬼。地元民を嚮導として徴発しておいて置き去りにして凍傷にさせるとか極悪。

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