2021年5月25日火曜日

田山花袋「蒲団」(明治40年)

田山花袋「蒲団」を読む。学生の時以来で読み返す。前回は新潮文庫版だったのだが、今回は岩波文庫版で。
学生時代に読んだ時も衝撃だったのだが、今読み返してもこの主人公先生の心の声には失笑だし笑撃。

主人公竹中時雄は小石川で地誌編纂の仕事に従事する傍ら、4時には牛込矢来町の自宅に帰宅する、妻と3人の子を持つ37歳の中途半端作家。
作品は酷評されたりもするのだがファンレターも届く。その中に熱心に弟子入りを希望する19歳女学生横山芳子がいる。手紙のやりとりをしてるうちに将来性を感じ師弟関係を結ぶ。

この先生が妻子ある立派な中年なのだが、上京してきた芳子が思いのほか美人なので密かに恋心。性的な目で見てる…。

芳子には田中という年の近い神戸の男がいた。こいつが芳子を追いかけて、学業も投げ出し家出同然の徒手空拳のまま上京。時雄は呆れる。この田中の上目遣いや演説口調を激しく嫌悪。だが、あくまで表面上は紳士として大人の対応。

芳子は何度も田中と逢っている。なのに時雄先生に純粋で正しい恋だと強弁。だが時雄は「心も体もすでにヤツに奪われ純潔じゃないんだろ…」と疑いの目。そしていら立ち、妻に当たる。

学生時代はこの時代の文物や様子がたぶんぜんぜんイメージできてなかった。この小説がぜんぜん頭に描けていなかった。新宿区に昔は牛込区があったこととか、小石川の共同印刷の工場とか、甲武鉄道とか、新橋停車場とか。
切支丹坂ってどこかわからなくて調べた。これはたぶん地元の人しか知らないわ。

東京中を歩いてみたり、いろんな映画や本や古写真を見たりして、今やっとイメージできてる。やはり明治大正の小説を子どもたちに読ませて、何か出題して答えさせるのは無理がある。
当時は、車ででかけていくシーンとか、てっきり自動車をイメージして読んでいたかもしれない。そうか、人力車のことか!

芳子の田舎から忙しいのに上京してきた父親。時雄といっしょに芳子と田中を説得するも、若い2人が頑なで度し難い。
時雄はただ単に芳子を田中に渡したくないために、芳子の父を呼び出してる。そして、芳子は田舎に帰ることに決定。自分のエゴを通した。大人として当然のことをした風を装って。

芳子が出て行った後に、押し入れに残された芳子の夜着の匂いを嗅ぐとか、蒲団に夜着をかけ顔をうずめて泣くとか、なんなの?困惑w 

坂道グループに推しメンのいる男性の心理に近い。アイドルとして応援してるけど、ぜったいに男の影を感じたくない。男とデキて卒業していったメンバーは許さない。
坂道グループのファンには握手を待ってる間にこの本を読ませたい。読むのに1時間もかからない。
これを初めて読んだとき、中年男性になって若いアイドルとか追いかけるのはぜったいやめようと思ったw 

そしてもう1編「一兵卒」(明治40年)も読む。日露戦争に従軍した一兵士が、脚気なのに病院を抜け出し隊に合流しようと追いかけ、野垂れ死にする話。
お国の為に、もう戻らない覚悟で戦地に行くも、あまりに悲惨な光景に恐怖し故郷へ帰りたいと願う。家族の顔を想う。

この時代の日本人青年はもれなく徴兵され、初めて見る泥と土埃の満洲に送られた。日本中の各地の神社に、その村から出征して戦死した若者の名前が書かれた日露戦争の碑がある。その存在に大人になるまで気づかなかった。戦争が人々の身近にあった時代がすぐ最近まであったことをしっかり教えるべき。

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