2021年5月31日月曜日

三島由紀夫「青の時代」(昭和25年)

三島由紀夫「青の時代」(昭和25年)を新潮文庫で読む。初めて読む。

東大生山崎晃嗣による闇金「光クラブ」は戦後アプレゲール事件としていろんな本にも登場する。山崎をモデルにした小説「青の時代」では主人公を千葉県K市の川崎誠と名前を置き換えて描いてる。

三島は大正14年生まれ。昭和の年がそのまま年齢。山崎は三島の1学年上の同世代。浜口首相狙撃事件、5.15事件、2.26事件、少年時代に衝撃を受けた事件もそのまま同じ。

K市とは木更津市のこと。「K市は由来低能児の多い町である。」と書かれている。代々官吏の家系で学習院、東大法学部、大蔵省というキャリアから作家となった青年三島が言うのだから、当時の世間の常識なのかもしれない。東京の上流階級の人々の、東京湾対岸へ向ける眼差しはそんなものだったのかもしれない。(今でも袖ヶ浦ナンバーで助手席に女を乗せた車の運転はヤバい。)

基地と漁業の町で少年時代を過ごしたのが主人公。地元の名士(医者)の父に反発しつつ一高へ進む。東京は木更津の対岸に見える都。

25歳の天才が書く日本語がすごい。初めて知る単語が多い。初めて見るような表現ばかり。
4つ年上の憧れの看護婦を「きれいな目をしていた。笑うと目の中にきれいな漣(さざなみ)が立つようだった」とか、おおぉぉ?!って思ったw

一高の寮で愛宕(おたぎ)と出会う。予想に反して戦争中のことは殆ど書かれない。たった1行で戦後になっていた。
父から贈与された10万円を投資詐欺でアッサリ失う。金は惜しくないが、ダマされたことはすごく悔しい。

すると今度は川崎も愛宕といっしょに投資詐欺に挑戦。現代でも数年おきに見聞きする出資法違反の、配当だけは払い続ける自転車操業投資詐欺。川崎はべつに金に困ってたわけでも金が欲しくてたまらなかったわけでもない。目的も無くなんとなく。

やがて母親がやって来る。息子を高利貸しにしてしまったと嘆く。元華族の仕舞屋にも過酷な取り立てに出向く。
税務署の件で燿子と対決。自分が「破瓜」という日本語の意味を知ったのはつい最近。

偏屈で変わり者青年の心の独白論理と三島の美しい日本語。よく意味はわからない。会社は今後どうなる?という段階で突然バッサリ終了。

あれ?光クラブ事件って、物価統制令と銀行法違反で取り締まりの末に、山崎が挫折と自殺するんじゃなかったっけ?三島はそこまでは描かない。純文学作品っぽい放り投げるようなラスト。三島はひたすら山崎晃嗣に冷淡な筆致。

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