2021年4月27日火曜日

竹島―もうひとつの日韓関係史(2016)

池内敏「竹島 ―もうひとつの日韓関係史」(中公新書 2359)2016年1月刊を読む。

自分、かれこれ15年間に竹島関連書籍を読むのがこれで5冊目ぐらいになる。わりと竹島を語るうえで問題となるポイントは押さえてるつもり。

初めて読んだ本が下條正男「竹島は日韓どちらのものか」(文春新書 2004年)で、一番最近読んだのが月刊WiLL「竹島問題100問100答」(2014)。(あとの2冊はあまりピンとこないものだったので印象にない)
この2冊は韓国の主張に100%反撃するという、日本人のための日本人の主張本だった。この2冊でもう竹島問題関連書籍に満足してしまい、もう読むつもりはなかった。

この「竹島 ―もうひとつの日韓関係史」という本も他の本同様に扱う論点はほぼかぶってる。この問題を扱う以上、使う資料はどれもだいたい同じになる。それは致し方ない。

だがしかし、それでもこの本は新鮮だった。
韓国の持ち出す古地図の于山島が即時的に竹島にはならないという点も指摘するのだが、17世紀の鳥取藩と伯耆国米子の大谷・村川両家が幕府の許可をもって竹島(鬱陵島)に渡海しアワビやアシカ漁をしていたことが必ずしも日本が竹島を領有していたことにならないことも指摘してる。日本外務省の竹島パンフの主張にもダメを出す。日韓双方のそれぞれに領有の根拠になっていない点を指摘する。

元禄竹島渡海禁令は竹島(鬱陵島)と松島(竹島)がむしろ日本でないことを示している。「竹島へ渡ることは禁止したけど松島はダメって言ってないから日本領」は無理筋。竹島と松島はセット。竹島へ渡海する途中で立ち寄るのが松島。(かといって朝鮮のものだとも言ってない)
竹島問題に初めて接する人は、まず当時の竹島が鬱陵島であり、松島が現在の竹島であることに混乱し戸惑う。この辺はいろんな本を読んで慣れるしかない。

あと、天保竹島渡海禁令(石見浜田藩荷抜け事件)についても現在では日本側はあまり触れない。元禄竹島渡海禁令が幕府と鳥取藩と大谷村川家の禁令だったのだが、天保竹島渡海禁令が日本全国に渡る禁令。

あと、竹島問題書籍で通常多くのページを割かれる安龍福事件について、この本もしっかり語る。
そもそも安龍福の記録は信用できないし確かめようがない。現在では日韓双方でこの問題のウェイトは大きくない。

日本にとって不利な材料だった「明治10年太政官指令」における「竹島外一島之義、本邦関係無之義可相心得事」の「外一島」を、従来の日本の研究者たち(17世紀以降ずっと日本領であり続けたと主張する人たち)はなんとか強引に苦し紛れで「竹島のことじゃない」としてきたけど、筆者はどうしたって竹島としてる。つまり鬱陵島も竹島も日本のものとはいえないという認識だった。渡海禁止令の段階で断絶してる。

ただし、この時点で竹島は日本のものじゃないと中央で認識してたとしても、1905年の竹島領土編入の閣議決定と島根県公示によって日本領となってる。(それ以前からずっと日本領だったとはこの閣議決定は言ってない)

自分は以前から「固有の領土」という言葉の意味がよくわかっていない。この本の筆者も日本政府の主張する「固有の領土」という概念が意外に新しいものであることを指摘してる。政府見解の応酬という過程で1962年から日本が持ち出した概念らしい。

「固有の領土」論を持ち出すことで、1905年に無主地先占の法理で日本は竹島を手にした以上、それ以前に韓国が竹島を領有してたことを証明しない限り、竹島は日本のものという論理に持ち込める…という論法。
だが、無主地先占で領有したと言っておいて、17世紀に領有権として確立したとも主張する外務省の方針についての疑問も提示。

サンフランシスコ条約第2条a項「日本が放棄する島」に韓国は竹島を加えるように主張したものの、ラスク国務次官補は回答書でこれを拒否。1954年に韓国を訪問したヴァン・フリート大使は「米国の立場として竹島は日本の領土」と言ってる。

だが、筆者は1905年前後における竹島をめぐる史実を想起すると、ラスク書簡の妥当性を心配だと言う。もし日本が閣議決定前に韓国に事前照会してたら、韓国は当然に反論していたっぽい。その証拠に竹島を調査したあとに鬱陵島を訪問した島根県知事らの発言に韓国側は危機感を持っていた。

だがそれでも、国家レベルで何も反論した形跡がない。
韓国側が主張する大韓帝国勅令第41号第2条にある「石島」が現在の「独島」であるという証拠はない。韓国の論拠も弱い。
この本ではパルマス島事件のような、中世以前に発見したという事実のみで決定期日以前に領有権が確定していたのか?という問題にはまったく触れていない。そこ、どうなんだ?

従来の日本の竹島本が、100%日本領であると押し続ける内容のものが多い。だがこの本はかなり慎重で中立公平。日韓双方の主張に疑問を呈する。双方それぞれ見たい事実しか見ていない。噛み合わない。

日本人はICJに提訴すれば勝てると思ってる人が多いようだが、この筆者は「100対0では勝てない」と言ってる。つまり何らかの譲歩が必要になるけど、日本にその覚悟がある?と。耳に心地よいことばかり言う人よりも信用できそう。結果、竹島関連本として最初にオススメできる。
この本の結論に失望してる人もいるようだが、そういう人は筆者を批判するだけでなく、この本の警告をふまえて、さらなる論理武装をすればいい。

その点でこの本は新しい知見を教えてくれた。やはり簡単な問題じゃないっぽい。21世紀もまだまだモメ続けそう。

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