2021年3月15日月曜日

椿井文書

中公新書2584「椿井文書―日本最大級の偽文書」(2020 馬場隆弘)を読む。

かつて偽書「東日流外三郡誌」の騒動に関する本を読んだとき、すごく楽しかった。この「椿井文書」も近年に騒動になっていた。同じノリを期待して読む。

椿井文書って何?山城国出身の椿井政隆(1770-1837)が依頼者の求めに応じて書き残した偽文書全般をいう。

中世以前の文書、院宣とか家系図、寺社の由来、村の境界争いと地図、伽藍図、などは17世紀以降に書き写されたものが多い。この椿井という人が、求めに応じて訴訟で使われた証文として偽造したり、書き換えたり、創出したりして、関西各地に膨大にちらばってしまった。それらが相互に補完しあう。
これを知らずに学術論文や書籍、市町村史などに引用してしまっているケースが多い。それはとても困った事案。

偽文書作成は昔から厳罰に処される罪なのだが、この椿井という人物は存在しない日付をつけるなどして、その文書が使用されたときの言い訳の余地を残している?
ファンタジー歴史小説のつもりでいれば、それは犯罪じゃない。知識人の多い街道を避け、山間部にばらまいてる。

享保以後は「五畿内志」として広まってしまった。わかる人にはわかっていても、こうなると利害関係もあって声を大に否定することが難しくなっていく。木津の今井家がグランドゼロ?

大阪府枚方市の伝王仁墓も偽史に踊らされた雑な比定による史跡。韓国から観光客もやって来るようになって引くに引けなくなってるってマジ?!
アテルイの首塚とか、継体天皇樟葉宮伝承地とか、薄弱な根拠による雑な比定で史跡となってしまう。まさに怒りの珍百景。

この著者(研究者)は椿井文書を見極める方法を確立しているようだ。それはそれで日本中世史への大いなる貢献。
この本では言葉遣いがマイルドになっているそうだが、それでも辛辣。「興味深いことに、椿井文書に信憑性を与えたがる人々は、京田辺市在住という点が共通する。」「椿井文書を否定することは、アイデンティティーを否定することにもなるため、自己を保つために激しい批判をするのであろう。」容赦ないw

「椿井文書の絵図に従って発掘したら実際に遺構が出土したもん!」→「京都周辺の交通の要所で発掘調査をすれば何か出てきてあたりまえ」
「記紀と一致してる箇所もあるからそれ以外も史実の可能性がある!」→「それこそが椿井政隆の狙い」完膚なきまでに叩くw

馬場氏の挙げる緻密な例証に反論することは難しいように感じる。なにせこの人ほど多くの椿井文書の現物に目を通している人はいないのだから。
批判者はこの本の些細なわかりづらいポイントをあげつらって「根拠は?」と言ってるだけのように感じる。

京都方面の郷土史研究者たちに多大な混乱とアイデンティティ―の喪失をもたらすことが予想される。おそらく、「東日流外三郡誌」の和田文書に関わってしまった古田武彦とその与党のような運命をたどる。偽史に踊らされ夢から覚める。背筋が薄ら寒い。

けど、面白がってもいけない。「トリック」で仲間由紀恵が言っていた言葉を思い出す。「解き明かしちゃいけないこともあるんですよ」「面白いと思っても、その人たちにとってはちっとも面白いことじゃないんですよ」

0 件のコメント:

コメントを投稿