2020年10月26日月曜日

市川崑「女王蜂」(1978)

自分は市川崑監督の石坂浩二金田一シリーズが大好きで高校時代から何度も見てる。「犬神家の一族」「悪魔の手毬唄」「獄門島」はとくに大好きで、セリフ、次の場面、カットなんかもほぼ覚えてるぐらいに何度も見てる。
だが、「女王蜂」はそれほど見ていない。今回、久しぶりにじっくり見た。

この映画はまずキャストがすごい。岸惠子高峰三枝子司葉子という金田一過去作で重要な役を経験済みの大女優を3人もそろえたことがすごい。

あんまり見てないと思ってたけど、映画メインテーマもしっかり耳に染みついていた。女王蜂メインテーマも意外に好きだということを発見した。
岸惠子が時計塔のチャイムが鳴ってるのをレバーをぐいと止めるとバーンとタイトルとテーマ音楽が食い気味に入るところも「悪魔の手毬唄」みたいで好き。

そして仲代達矢までもキャスティング。仲代のバンカラ学生服姿はムリがあると思ったw
その親友が佐々木勝彦さんだ。19年前に殺されてしまったヒロインの父。事件の中心人物。

そして大型新人中井貴恵なわけだが、角川映画メディアミックスの集大成ともいえるCMタイアップなんかでガンガン売り出した。
しかし、当時を知ってる人なんかの話だと、ぜんぜん絶世の美女という感じがしなくてガッカリだったとか。その意見は今でもこの映画を語るときよく聴かれる意見だ。新人で致し方ないが歴代ヒロインで演技もいちばん見劣りがする。

そして沖雅也。これだけ多くのスター俳優たちに均等に役を振り分けて、誰もが納得できるストーリー脚本にするには相当に難しいのでは?と思う。映画は脚本がすべて。いくら市川崑がスタイリッシュな映像でかっこよく美しく撮ってくれたとしても、映画として高評価を得るのは難しい。撮影期間がタイトだったせいもあって、市川崑は後にやっつけ仕事だったと漏らしたらしい。

小林昭二、大滝秀治、三木のり平、坂口良子、といった市川金田一の常連たちが出て来た時は「来た来た~っ!待ってました!」と思う。

この映画でも加藤武は準主役級の活躍。今回もすごく威張ってるし怒ってる。
市川金田一はこの人で回ってる。「うーん、時計にミステリー」「口紅にミステリー」今回は角川メディアミックスがやりすぎ。
心霊研究家九十九龍馬(神山繁)の差し出した名刺を読み間違えるシーンとか、そのまま堤監督がTRICKでやってるようなシーンで可笑しい。
駐在所さん役の伴淳三郎が異質。このキャスト、自分は高校時代から「どうなの?」って思ってた。終戦直後はこんなヨボヨボな警察官ばかりだったの?

市川組の沼田和子さんも草笛光子の母親役で登場w なまこ壁の町「下田」のテロップの後、部屋で草笛さんがチンドン屋の打ち合わせしてるところに「うるさい!」と三木のり平が襖を開けて現れて、金田一さんの聞き込み捜査現場シーンになるところが好き。

三木「探偵?探偵ってのはおめえ…」昭和初期の探偵イメージが興味深い。子どもの頃は「肉弾三勇士」とか言われても何もわからずポカーンだったわ。

ただ、映画冒頭でバスに揺られて月琴の里にやってきた金田一さんが、たまたまそこに通りかかった汚い農夫常田富士男の自転車リアカーに乗せてもらうシーンはあんまり好きじゃない。金田一さんは天然だけど、こんな無神経じゃない。頭がいいなら結果が予想つかないはずがない。この農夫も転倒事故で一緒に水たまりに落ちるなど酷い目に遭わせてる。

この映画は絶世の美女大道寺智子の求婚者たちが殺されて行くのだが、その中に個性的な顔をした俳優がいる。自分は今回見るまで気がつかなかったのだが、この人は仮面ライダー2号俳優なの?!

実は2年ぐらい前に横溝正史「女王蜂」角川文庫を買ったのだが、まだ読んでいない。映画は原作とはかなり改変してあるに違いない。銀造の父が東小路家の馬丁で主君の罪をかぶって獄に入って一家離散。孤児になった経緯が加えられたのはかなり良い。白石加代子の語る悲劇が毎回毎回とてもよい。
神尾女史が金田一さんに「こうもり」の写真の話題をして、あえてアルバムを渡した意味が以前はよくわからなかった。今回見返してみてもわかるようなわからないような。

あと個人的に、この映画はロケ地がぜんぜんわかってなくてイライラするw
月琴の里のロケ地がずっと不明。この場所にはまだ誰も到達していないようだ。
市川崑は天城のシーンを天城で撮るなんてことはしない。何度か探してみたけどまったく手がかりが得られていない。

横溝先生は結核を患ったとき上諏訪の家でよく編み物をやっていたことも後に知った。そんなことを踏まえながら今回見てみて「女王蜂」も面白かった。十分に市川崑らしさのあるマスターピース。

「女王蜂」は稲垣吾郎版以降作られていない。稲垣版は今見るのがなかなか難しくなっている。
野心的なクリエイターはぜひ市川崑を超える「女王蜂」に挑戦してほしい。

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