2021年1月11日月曜日

ガストン・ルルー「黄色い部屋の秘密」(1907)

「オペラ座の怪人」で知られるガストン・ルルー(1968-1927)の長編推理小説「黄色い部屋の秘密」を2015年高野優監訳・竹若理衣訳ハヤカワ・ミステリ文庫(新訳版)で読む。
これは3年前の秋に100円で売られているのを見つけてラッキーと思い連れ帰ったもの。やっと読んだ。499ページの長編。
LE MYSTÈRE DE LA CHAMBRE JAUNE by Gaston Leroux 1907
自分、ガストン・ルルーという人がいつの時代の人かまったく知らなかった。コナン・ドイルより9才年下、モーリス・ルブランより4才年下。G.K.チェスタトンの4才年上。まだ馬車が走る時代。1907年は明治40年。
12才年下のアガサ・クリスティーは「複数の時計」においてポアロの口から「黄色い部屋の秘密」を傑作だと褒めさせている。

グランディエ城の黄色い部屋で、フィラデルフィア出身の物理学者スタンガーソン博士の娘マチルド嬢(未婚35歳)が頭部から血を流して倒れているのを、銃声と悲鳴を聞きつけてドアを破って部屋に入った博士と老僕、門番によって発見された事件。

この物語の名探偵にあたる主人公はレポック紙の三面記事記者ジョゼフ・ルールタビーユくん。信じられないのだが18歳。
その友人で物語の語り手である「私」が弁護士として開業したばかりのサンクレールくん。ルールタビーユとの会話を聴いていると、おそらく同じ年ぐらいだろうと思われる。

ルールタビーユ少年がレポック紙で働くようになったきっかけも聡明な推理によって特ダネを持ち込んだから。この子の相手に取り入って話を聴きだすスキルがスゴイ。このグランディエ事件も予審判事が劇作家なことから戯曲談義で話に入り込む。マチルド嬢の婚約者ダルザック氏にも耳元で何かささやくだけで事件現場に介入。

事件はパリ警視庁のやりてと評判のラルサン警部が調査。ルールタビーユくんはこの刑事を難事件をいくつも解決した立派な刑事として尊敬。
だが、身近で捜査手法を見ているうちに、結論ありきで見たいようにしか状況と証拠を見ない!と軽蔑するようになる。この刑事に挑戦していく。
このルールタビーユくんのキャラがいい。自信満々で十代ならではの行動力。

マチルドは瀕死の重傷だったのだが懸命の看病により命を取り留める。頭部の傷は銃によるものでなく「羊の骨」? 時代が100年以上前なのでよくわからない凶器だ。
そして、黄色い部屋から犯人はどうやって消失した?この部屋が完全な密室。

この本で著者は3つの犯人消失の謎を提示している。ひとつめの黄色い部屋でのマチルド嬢襲撃事件こそが古今の密室ミステリーの古典マスターピースらしいのだが、この本を読んだことがない人でもこのタイプの真相は既におなじみなのでは?と感じた。

2つ目の長い廊下で逃走した犯人が消えた事件。ルールタビーユくんはわりと本格なロジックで真相にたどり着いてる。

3つ目、袋小路に犯人を追い詰めて銃で撃ったはずが森番の刺殺体が見つかった事件の真相。これは別案件の不倫を盛り込んだりしてるけど、犯人消失トリックはまったくピンとこない。てか、トリックですらない。

真犯人は意外。だが、アンフェアなので読んでいてそれほど驚けなかった。そもそもガストン・ルルーは本格推理小説を書いてるつもりもなかった?ホームズ、ルパンのような展開。

古今の推理作家たちがこぞって傑作扱いする「黄色い部屋の謎」だが、やはり時代を感じた。新聞連載小説だからなのか中盤は冗長で退屈した。裁判所の場面ですら長いと感じた。

ルールタビーユくんはとても18歳とは思えない。おそらく十代で司法試験に受かるようなタイプの人間。この少年新聞記者探偵が活躍する長編は他にもある。本編で続編に期待を持たせるような書き方をしてる。けど、もう読まないかもしれない。

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