2020年9月28日月曜日

児島襄「誤算の論理」(昭和62年)

児島襄「誤算の論理」を読む。1985年から86年まで日経ビジネスに連載されたものと別冊文芸春秋に掲載されたものを昭和62年に文芸春秋社が単行本化。1990年に文庫化されたものの第2刷。3年前の2月に100円で買って積んでおいたものをようやく読む。

児島襄(こじま のぼる 1927-2001)の本を初めて読んだ。近現代史、戦術史に関する著作が多いのでよく目についていた。
学術書のようで文体はそれほど固くない。11のテーマについて書かれている。簡単に感想。

「維新の誤算 西郷隆盛の影」西南戦争を起こした西郷の復権は早かった。明治のうちに銅像が立った。参謀本部編纂の「統帥綱領」には「無限ノ包容力」とある。これが西郷の影らしい。下級者の反抗は上級者の甘やかしが原因。二・二六事件の青年将校たちの心理にも少なからず影響した?

「王たちの誤算 ヒトラー支援」〇〇王と呼ばれた大資本家たちはリスクを分散して各政党に献金寄付。なによりも財産を失う共産化は怖い。英国王エドワード8世は母がドイツ出身でドイツ語で会話ができて親ドイツだと知らなかった。ナチスとヒトラーを褒める発言をして英国政府の政策とズレていって退位させられたと知らなかった。アメリカの自動車王フォードもヒトラーを支援してたって知らなかった。

「アメリカン・デモクラシーの誤算 ルーズベルトの理想」民主党ウィルソン大統領時代にアメリカは第一次大戦に参戦するのだが、そのとき合衆国憲法修正第18条(禁酒法)が成立してしまった。その顛末が面白い。

戦争中は酒飲んでる場合じゃない!ってなるのはわかるけど、施行が戦後の1920年。酒を禁じたことで国民は節度を持った紳士になるかと思いきや、ずぐさま闇酒が出回りギャングの資金源。
ウィルソンの後で共和党の大統領が3代続くのだがハーディング、クーリッジ、フーバーがそろいもそろって無策無能。何もしないことをよしとする人々だった…。

あと、米国民は英国を嫌ってた。第一次大戦は頼まれて助けてやったのに、一人勝ちの焼け太りみたいに非難されるし、民主主義の精神踏みにじってベルサイユ体制でドイツを苦しめてまた戦争になりそう…って知るかよ!と、ルーズベルトの意に反して米国民は全然戦意が高揚しないw ドイツと戦うとか意味わかんないw

あと、アルデンヌ作戦で苦戦してしまったためにチャーチルは判断謝ってソ連に助けてもらう。そのせいでアメリカはソ連支援物資の代金55億ドルを「助けてやったからチャラね」と踏み倒される。ソ連、最低。以後、ソ連は増長してしまう。戦後の東西冷戦はチャーチルとルーズベルトのせい。

「平和国家の誤算 フランスの栄光」文化国家を標榜し平和を享受したフランスが軍事国家ドイツになすすべなく降伏するまでをしっかり学べる。自分にはとても勉強になった。

そして、フランス国民に知られていない末席将軍にすぎないドゴール准将が持ち前の声のデカさと態度のデカさでフランス国民の代表になりすまし、対ドイツ戦でなにもしなかったにもかかわらず米英ソの3国の間にフランスをねじ込むごり押し手腕の凄さに脱帽w

チャーチルもアイゼンハワーもドゴールに押されっぱなし。いう事聴かないのに要求はデカい。チャーチルがこいつを英国から追い出していたらドゴールはただのドン・キホーテになっていた…。

「アメリカン・デモクラシーの誤算」「平和国家の誤算」の2章を読むと第二次大戦のヨーロッパ戦線のことがよくわかる。知らないことだらけだった。もっと早くこの本と出会いたかった。

「菊と刀の誤算 日米関係の起点」ルース・ベネディクト「菊と刀」は誤解だらけで無理解の書?アメリカ人は戦争が終わったら天皇を処刑しろ!と猛り狂ってた感がハンパなかった。

「靴と刀の誤算 日本式戦術思想の固定」帝国陸軍は靴で負けた。ちゃんと機能するマトモな靴すら供給できずに兵士たちを疲弊させ潰していった。そもそも軍刀とか菊の紋章とか実践において無意味。

「陸海軍並立の誤算 国防力の分裂」陸軍の将校兵士たちは陸軍と海軍の食事の格差に嫉妬?陸軍の主敵はソ連、海軍の主敵はアメリカという異床異夢。
陸軍は中国大陸で臨戦態勢なのに海軍はロンドン軍縮条約を破棄して艦船を用意するまで数年かかる。
陸軍にも海軍にも統合しないと負けると危機感からアイデアを出す人がいて話し合いの席につくのだがアルミの割り当てでもめるw 結局そのまま敗戦。

「暗号と情報の誤算 戦略の屈折」日露開戦前から日本の暗号はロシアに解読されていた!そしてミッドウェー海戦という山本長官の誤算。

「諜報の誤算 政略の弱化」マレー工作ビルマ工作インド工作、どれもあまり上手くいかなかった。中野学校の人材を活かせなかった。

「組織と人の誤算 個人の否認」甲標的のような必死の兵器を使うようになったら組織的戦闘の終わり。

「政治と軍事の誤算 パットン将軍の死」英米とソ連はドイツという共通の敵と戦っていてもお友だちではなかった。チャーチルは嘆いた。ヨーロッパをナチスから共産主義に渡してしまえば何のために戦争をしたのか?
ルントシュテット攻勢でドイツの残存兵力を多く見積もってしまい、ヤルタでソ連に譲歩し過ぎ、国家要塞情報と人狼部隊情報にビビる。アイゼンハワーはベルリンに急がなかった。ベルリンとプラハを解放したのが連合軍側であったなら…という歎き。

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