2020年9月2日水曜日

綾辻行人「暗黒館の殺人」(2004)

綾辻行人「暗黒館の殺人」(2004)を読む。一昨年12月に講談社NOVELS版上下巻がそこに各100円で売られていたのを確保しておいたもので読む。

講談社文庫版なら全4巻におよぶ大作。ちょっと躊躇しつつ、講談社NOVELS版なら2冊200円で済むので購入。
なにせ上巻が654ページ、下巻が639ページの大長編。なかなか読み始める気分になれなかったw
こんな分厚い本は京極夏彦ぐらいしかないだろうと思ってたら、カバーデザインに京極夏彦の名前が!そして事件の舞台の館の図版作成には小野不由美の名前が!

館シリーズでおなじみの江南くんが登場。これまで自身がかかわった事件を回想しながら濃い霧の峠道を車で行く。村人が「近づかないほうがいい」と警告するのだがその館へ向かう。明治時代に一代で成り上がった大金持ちが、外界から遮断された山奥の湖に浮かぶ島に建てた、真っ黒な大きなお屋敷らしい。

山道で大地震発生。そして事故。負傷しつつ助けを求めに館へ向かう。廃れた感じのする船着き場からボートでその館へ向かう。薄れゆく意識で塔のようなものへ登ったらまたしても地震発生。バルコニーのようなところから地上へ転落。

塔から転落する男を館から見ていた人がいた。ここで主人公が交代。T大工学部建築科の「私」中也くんが主人公。

この中也くんは東京北区西ヶ原の古川庭園でスケッチして外に出たあとの記憶がない。暗黒館当主の息子でT大医学部から文学部に移った大学生浦登玄児に倒れているところを発見保護される。目が覚めたら白山の浦登邸。記憶が戻るまで世話になる。「中也」は記憶喪失時に玄児がつけたニックネーム。
やがて記憶が戻り大学にも復帰。前期試験が終わて熊本の山奥にある暗黒館を訪問していた。

この本、あまりに長大で読み終わるころには内容を覚えていないのでは?と思った。読み始めは文体が幻想的で断片的でとても分かりずらい。
だが、主人公ふたりが大学生で、会話形式のかしょはむしろ読みやすい。

内容は本格というより江戸川乱歩的なのでは?と感じた。てか、この浦登玄児と「私」がどこか乱歩の「孤島の鬼」っぽい雰囲気。館があるのも秘境の島だし。玄児は元医学生だし。
館で誰かに見られてると感じた「私」はそのあとを追いかける。するとシャム双生児少女までも登場!
ああ、これはエラリー・クイーン「シャム双生児の謎」の雰囲気もある。江南が地震による事故で館に命からがらたどり着くのも似ている。EQは山火事だったけど。

この小説は主人公の主観が移動していく。そこの表現が独特。冒険がてら館を見に探検してきた村の小学生目線でも語られる。この小学生が草むらに死体を発見。サスペンス映画のように場面が変わる。何がどうなってるのか混乱。

私(中也)と玄児と主治医と家政婦の介抱で江南くんは意識を回復するも記憶を喪失。やがて自分の名前は思い出す。(だが、身分証や財布がなくなってるのは何故?)

第1部第2部は浦登家とその一族たちと暗黒館を「私」が玄児といっしょになかよく調査。
だが、友だちだと思ってた玄児くんもなにか様子がおかしい。
中也くんは浦登家の秘密の儀式のようなものに強制参加させられ不味いスープやワインを飲まされる。

2回目の地震で連絡が取れなくなっていたボートを管理する門番が瀕死の重傷で発見されるのだが、後に絞殺。長年屋敷にいる身寄りのない男がなぜ殺された? 
家族のアリバイを調べるうちに秘密の扉や抜け穴の存在が明らかになる。外部との連絡が断たれる。館シリーズらしい展開。
浦登家の人々は警察に連絡しようとしない。事故死として内々に済ませようとする。中也くん、不信感。
なかなか新しい展開に発展せず退屈の極み。長すぎて飽きてきた。やはり冗長にすぎる…。

そして2人目の犠牲者。嵐の夜、侵入者の大捕り物の末に、阿鼻叫喚の人骨沼という恐ろしすぎるホラー展開で上巻が終わる。
下巻は第4部から始まるのだがたいして進展も無く、この本を読みだしたことをほぼ後悔。
そして最長の第5部へ。玄児くんが9才だった18年前の話へ。

ダリアという曽祖父のイタリア人妻の話。これが怪奇ホラー展開。今まで読んできた館シリーズとやっぱり毛色が違う。ジャパニーズホラーによく見る「そういう設定だから」で押し通す。こういうの、自分は好きじゃない。
多少驚くことも起こりつつ、「私」は玄児に18年前の殺人事件の真相を語る…。

「間奏」とかいう市朗目線、記憶が戻らない江南のぼんやり意識とかいらんやろ!と思いつつ、全体像がぼんやりとしか見えてこないビミョーに齟齬のある(?)あいまい記述にイライラしながら、とっとと早く読み終わろうと読書スピードを上げた。

だが、下巻の残りが5分の1ほどになったとき、著者の仕掛けたアクロバティックな全体構造がなんとなく読めてきた。ひょえ~、と思った。
第5部ラストで暗黒館は焼け落ちる。呆然とたたずむ関係者一同。「私」の正体が読者に明かされる。
だが、まだ江南くんがどうなったか明かされていない。そして第6部へ。
え、江南くんは霊能力者か何かなの? 

ひたすら長くて疲れた。やはりこの本は館シリーズを順番に読み進めてきた人が最後に手に取るべき一冊。まあ、読後に充実感はあるけど、正直もう読まないかな。
これをもって綾辻館シリーズは残すところ「奇面館の殺人」のみ。

PS. 元乃木坂46佐々木琴子も今この本を読んでいるらしい。館シリーズ読破に挑んでいるらしい。

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